vol.1 味噌汁の話
「ごはんと味噌汁は、相思相愛」
~トマトと塩昆布の味噌汁~

稲作が日本に伝わって三千年。お米は日本人の主食として長い間食べられてきました。
そして、ごはんを引き立てるために生まれた素材の持ち味を活かしたおかずや汁物。
このコラムでは、ごはんと一緒にいただきたい「うまみ」ある一品をご紹介します。

日夜、おいしい炊飯にいそしむごはん同盟。うまみの話と言われて、すぐに思い浮かべたのが味噌汁です。ごはんは毎日食べても飽きませんが、それと同じくらいお味噌汁も飽きません。朝の味噌汁は1日を元気に過ごすための大きな活力となります。

味噌を知ることは、日本を知ること

私たちの出身地は新潟県。食卓に上るごはんはコシヒカリ、味噌は「越後味噌」と呼ばれる赤色辛口の米味噌が定番です。ですが、ごはん同盟の活動を始めて日本各地のいろいろな種類のお米を食べ比べるようになると、同じように味噌汁の種類についても気になりだしました。

味噌は大別すると、米味噌、麦味噌、豆味噌に分かれ、頭に「米」や「麦」とつくのは、味噌づくりに必要な麹の種類に由来します。つまり、米味噌とは、蒸した米に麹菌を繁殖させたものに、大豆と塩を混ぜてつくった味噌のこと。麦味噌や豆味噌も同様に、麦麹や豆麹を使って仕込みます。温暖湿潤な気候な日本は、カビの一種である麹菌の繁殖に最適な環境。そのため、収穫される農作物やその土地に住む人たちの嗜好性などに影響を受けながら、日本各地でさまざまな味噌がつくられてきました。

伊達政宗が醸造の専門家を仙台に呼び寄せ、軍糧用としての味噌をつくらせたのが始まりと言われる赤色辛口の「仙台味噌」。全国の味噌の生産量の約40%を占める淡色辛口の米味噌の「信州味噌」。赤だしとも呼ばれ、濃厚なうま味と渋みを持つ豆味噌の「東海豆味噌」。米麹を多く配合した白黄色で甘口の「西京味噌」。温暖な気候のため熟成期間が短く、淡色で甘口のものが多い麦味噌の「薩摩味噌」。私たちの出身地、新潟の「越後味噌」は、上杉謙信が関東地方に出兵した際に味噌作りの技術を兵に習得させたといわれています。各地の味噌を知ることは、その土地の風土や文化、歴史を学ぶことと一緒なのだと思います。

ごはん同盟の炊飯教室の参加者に「あなたの故郷の味噌汁はどんなお味噌を使っていますか?」とたずねると、面白いようにばらつきある答えが返ってきます。都会に出てからも慣れ親しんだ味噌を使い続けているようで、他の地域の味噌を新たに試す機会はなかなか少ないようです。私たちも新潟の塩気の強い米味噌に慣れていましたから、はじめて麦味噌の味噌汁をいただいた時は、そのうまみに「な、なんだ、このうまさは!」と、小躍りしてしまいました。

だしは、簡単にとることができる

味噌の種類によって味噌汁の味わいは大きく変わりますが、だしの存在も忘れてはいけません。味噌汁のだしは、大きくわけて「かつおぶし」「昆布」「煮干し」からとるのが一般的でしょう。これらのだしには、うま味成分であるイノシン酸やグルタミン酸が多く含まれています。西洋料理や中華料理のだしは牛骨や豚骨、鶏ガラなどを長時間煮込んでとるのに対して、和食のだしは短時間でうまみを引き出すのが特徴です。

短時間とはいっても「だしをとるのは面倒で……」と、敬遠している人が多いのも事実。料亭のような一番だしを毎回とろうとすると大変ですが、昆布や煮干しなら、材料を水と一緒にポットの中にいれて冷蔵庫で一晩寝かす水出しがおすすめです。かつおぶしパックを使って、コーヒードリッパーでだしをとることもできます。一人前の味噌汁ならこれで十分ですね。

3種の味噌(米味噌、麦味噌、豆味噌)と3種のだし(かつおぶし、昆布、煮干し)を組み合わせれば、あわせて9種類の味噌汁をつくることができます。以前に行ったごはん同盟のワークショップでは、この9種類の味噌汁のカッピングテストを行ったことがありました。3種の味噌×3種のだしの組み合わせを全て試し、そこから自分の好みの味を発見するという試みです。

ごはん同盟のいつもの味といえば「米味噌×煮干し」なのですが、「麦味噌×昆布」の組み合わせは、口の中にうまみがふわっと広がってうっとりするほどおいしく、いくらでも飲めてしまいます。「豆味噌×煮干し」は、お互いの主張が強すぎて毎日飲むにはちょっと厳しいけれど、二日酔いの日にはこれくらいパンチがある味が必要だと思いました。

ひとくちに味噌汁のうまみといっても、味噌とだしの組み合わせでさまざまな味わいをつくることができます。さらに、味噌汁のうまみはこれだけで決まるわけではありません。味噌汁にいれる具材からもうまみがでます。台所にある食材をながめながら、それにあわせる味噌とだしを考えるのも楽しいものです。いつもと違うチャレンジが、新しい味の発見につながります。

名付けて「グルタミン酸の三重奏」

今回ご紹介するのは、「トマトと塩昆布の味噌汁」です。「味噌汁にトマト?」とお考えの方も多いことでしょう。実はトマトはうまみ成分であるグルタミン酸を豊富に含んだ食材、さらに酸味と甘味が調和しているのが特長です。味噌のうまみの秘密もグルタミン酸。塩昆布のうまみもグルタミン酸。同じ植物由来のうまみを持った同士、これらが合わないわけがありません。「トマトと塩昆布の味噌汁」は、まさにグルタミン酸の三重奏といえるでしょう。

「トマトと塩昆布の味噌汁」材料とつくり方

◎材料(2人分)
トマト(小) 2個
塩昆布 大さじ1
麦味噌 15g
水 400 cc
◎つくり方
1.トマトは皮をむく。
2.鍋に水を入れて火にかける。
3.沸騰したら塩昆布とトマトを加える。
4.ひと煮立ちしたら麦味噌を溶き入れる。
5.お椀に盛り付けて、できあがり。

ご覧のとおり、レシピはいたって簡単。本来なら昆布だしを使うところですが、今回は手軽に作れるよう塩昆布を使いました。あらかじめ刻んである塩昆布は必要な分だけを使えるので、少量の味噌汁をつくるときにとても便利な食材です。食物繊維やミネラルも豊富で、味噌汁から引き上げなくてもそのままおいしくいただけます。塩分が気になる方は、味見をしながら味噌の量を調節してみてください。

味噌はトマトの酸味と甘味を活かすために、塩分が低く麹の量が多い麦味噌を選びました。トマトは1個まるごと盛り付けます。最初は箸で切り分けながら具材としていただき、次第に、トマトを崩しつつ味わってみてください。トマトの酸味と麦味噌の甘みが一体となった味噌汁は、食欲が落ち気味の夏にぴったりの一品です。

味噌汁に添える仕上げのアクセントを吸い口といいますが、トマトと塩昆布の組み合わせを際立たせたかったので、あえて添えませんでした。もちろん、吸い口を添えれば見た目にも美しくなり、より一層おいしくいただけると思います。大葉を乗せてさわやかな香りを加えてもよいですし、糸削りのかつおぶしを加えればうまみがグッと増します。これから旬のオクラを刻んでとろみをつけてもおいしいと思います。

ごはん同盟 プロフィール

試作係(調理担当)のしらいのりこ、試食係(企画・執筆担当)のシライジュンイチ、夫婦ふたりによる炊飯系フードユニット。「おかわりは世界を救う」の理念のもと、日夜ごはんを美味しく味わう方法を生み出し、発信を続ける。お米やごはんに関するワークショップや料理教室を開催するほか、雑誌などを中心に様々なメディアにてごはんレシピを発表。著書『忙しい朝でもすぐできる ごはん同盟のほぼごはん弁当』(家の光協会刊)が好評発売中。
http://gohandoumei.com