ニッポン全国、ヒトつながり。
vol.5「広島県広島市 ビールと通行人A
ビールスタンド重富 重富寛さん」

日本百貨店の鈴木です。

人繋がりがあればこそ、一つながりにつながっていくご縁。5回目は、地元を愛する広島市の職員さんであり、広島エバンジェリストを自称するヤマネ女史。その広島を輝かせようとするパワーはいつも尊敬しておりますが、ヤマネさんが、スズキさん!絶対に行かんといけんよっ!と私のことを引きずって連れて行ってくれた、広島の繁華街にある、小さなビールスタンドで起こっている心温まるムーブメントのお話し。

東京駅八重洲口から徒歩5分。日本百貨店が運営しております居酒屋、「日本百貨店さかば」は、日本百貨店のコンセプトである「作り手と使い手の出会いの場」を体現するワイワイ居酒屋を目指して、2018年5月にオープンいたしました。静岡県西伊豆町・香川県丸亀市という2つの自治体とも連携しまして、その両市町の豊富な食材を主に使用しながら、全国の、日本百貨店の視点で発掘した「これぞ」の食材や「ヒト」を発信する場所です。日本百貨店で売っている全国の調味料も使用しています。作り手が実際にお店に訪れて、お客さんとワイワイ触れ合う。そんな光景を目の当たりにして、ヒトとモノ、ヒトとヒトが出会う場所の有難さを感じる毎日です。特に毎週土曜日は、「日本百貨店どようび」と銘打って、地域や食材、ヒトにフォーカスを当てて、様々なイベントを行っております。ビュッフェ形式で気軽に参加できますので、ぜひ遊びに来てください。最近ですと、10月の「青森県八戸市のグルメと文化の祭典だっ!」で【東京・サバ開き】とサバの解禁を行ったり。「大分うまいもんナイト!」では大分からあげの鳥からをふるまったり。千葉産直という千葉の缶詰工場の社長、冨田さんが8年物の鯖缶をふるまう「さば缶ナイト」は冨田さんとたくさんの消費者がつながって、楽しいひと時でした。毎週大騒ぎです。

そんなさかばで、先日行われたイベントが、「重富寛さん製作の映画『日本の麦酒歴史』上映+生ビールの会」です。そこで素晴らしい光景を見たので、ぜひ皆様にお知らせしたい。

 

 

重富さんは広島の繁華街(飲み屋街)流川でビールスタンド重富を経営されています。もともとは近隣の飲み屋さんにお酒を届ける酒屋さん。その酒屋さんの一角で、ビールスタンドを開いています。ビールの注ぎ方で味がこんなに違う!重富さんのお店ではそんな不思議驚き体験ができます。昔ながらのビールサーバー(昭和)と現代のビールサーバー(平成)。巧みに使い分け、一度注ぎ・二度注ぎ・シャープにマイルド、その他は是非お店にいらしてご確認ください。えっ!こんなに種類があるの?最初は面食らいました。ひとつひとつが違う味わいなのはもちろん、飲み方も違う。いっぱいいっぱい注ぎながら、重富さんが丁寧に説明してくれます。腰に手を当て、ぐっと一息に飲み干す!そういわれたら、そう飲むのが一番、その注ぎ方のビールにあってるのです。

重富さんのビールスタンドは、17時開店、19時閉店。たった二時間?
しかも一人限定、2杯まで。たった2杯?

私がお店に伺ったときも50人以上の行列。100人を超える行列も珍しくないそうです。30分、1時間の待ち時間で、飲めるビールがたった2杯だけ。1杯550円。重富さんにとっても商売にならないだろうし(ビール1杯、大きなグラスに山盛りです)、待ったお客さんにとっても飲み足りない。こんな商売でいいんですか、重富さん。

「商売じゃありませんからいいです。私のところで少し引っ掛けて、ほろ酔いで他のお店に行って飲んでもらいたいからスタンドを始めたんですよ。」

どこの地方都市でもあることですが、流川全体がさびれてきて、居酒屋の元気がなくなってきた。そうすると当然、重富さんの酒屋さんの売上も減っていきます。この街で育ち、この街に助けられてきたのだから、この街を元気にできることがないか。そう考えて、自分にはビールがある。ビールで街を元気にできる。

重富さんはひけらかさない。さぁ、俺のビールはうまいだろう、こんな注ぎ方できないだろう。そんな姿は一切見せない。ビールを飲みに来い、ではなくて、ビールがあるから集まろうぜ、という感じなんです。非常に説明が難しいのですが。。。一つ言えるのは、ビールを飲んで笑顔になる。それから?なんです。その、“それから?”を重富さんは優しく、そしてシビアに、問いかけてくれているんじゃないかと感じます。

だからみんなの前で、ビールを注ぎます。さぁ、こうやるとうまいビールになるんだぞ、みんなやってみようぜ。街全体がおいしいビールを注いだら昔みたいにたくさんのお客さんがくるんじゃないの?重富流の、近隣飲食店さんへの檄なのかもしれないですね。

だからビール二杯飲んだお客さんを、すぐ外に出るように促します。さぁ、おいしいビールを飲んだよね、笑顔になれたじゃない。これからどこに行くの?何をするんだい。こんなところに居ないで、早く街に出なさいよ。

モノを売らずにコトを売る、という言葉がありますが、まさにビールを売るのではなく、ビールのある幸せな時間、幸せな場所を売っているのですね。

モノヅクリにお金を廻す、を社是として、日本百貨店はモノヅクリが後世に繋がっていく仕組みづくりを目指しています。分野は違うかもしれませんが、自分が大事にしたいものを繋げていくために、自分ができることをしっかりとする。そういう意味で、重富さんには勝手ながら、初めてお話を伺ったときから、親近感を覚えております。


重富さんと娘の美空(みく)さん

 

重富さんが日本のビールの歴史の映画を作ったと、前述の広島市のヤマネさんに伺って、すぐに重富さんに連絡を入れました。日本百貨店さかばで上映会をしてもらえませんか、そしてその映画を見たみんなに、ビールをふるまってもらえませんか。広島に行けない人にも、ぜひ重富さんのビールと、重富さんの考え方に触れてもらいたい。

快諾してくださった重富さん。平日の夜に1部2部、2時間ずつで、映画1時間と重富ビールタイム1時間。各部50名先着で予約を取りました。なんと予約開始から数日間で超満員。急遽席を増やして、当日は予約外の方もいらっしゃって立ち見の大盛況。50人と思っていたところに70人。その70人がおとなしく、じっと画面を見つめる。手作りの映画で、ハリウッドのように予算をかけたドキドキわくわく満載の映画ではなく、重富さんが一語一語かみしめて語り掛ける、そんな映画ですが、誰一人席を立つ人もおらず、心地よい静寂。そして映画が終わり、重富さんがご挨拶。さぁ、ビールサーバーの前に並んで!これからビールを飲みましょう!


日本百貨店さかばでの映画『日本の麦酒歴史』上映会

 


映画『日本の麦酒歴史』の撮影風景

 

ここからが驚きです。70人の餓えた(失礼)ビール好きの大人たちに対して、ビールを注ぐのは重富さんおひとり。1対70です。待ちます。長い列でじっと待ちます。制限時間は一時間。何杯も飲みたいと思っているノミスケ(失礼)たちにとって、その待ち時間は苦痛のはず。居酒屋で3分ビールが出てこないと、“ねぇ、まだ?”。ですのに、重富さんの行列に5分も10分も並ばされている大人たちが、なんとみんな笑顔。映画の感想を語り合いながら、自分の番をわくわく待っている。暴動が起きない。たぶんおひとりせいぜい飲めて2杯、ラッキーな人で3杯という感じでした。

会の終わりの時間になったら、そんなにせかす必要もなく、みなさま自分からお店の外に出て行かれました。次の第二部の人が待っているから。三々五々、何人かで飲みに行ったり帰ったり。みんな、重富ビールの楽しみ方を、自然と身につけられたんですね。映画の効果でしょうか。居酒屋を経営していますと、いろんな場面に遭遇するのですが、その私がこのきちんとした“ビールを楽しむ場”に、驚きを隠せませんでした。重富さんはビールを売るのではない、場を作っているんだ。そう感じました。

そのように伝えたら、重富さんから素敵なメールをいただきました。ご紹介します。

「場」づくりといえば、ビールのあるシーンづくりですね。でも希望としてはその「場」が、あなたの人生だと思っています。(原文ママ)あなたの人生の中にある「ビール」、助演男優賞や女優賞をビールが狙うのではなく、人生の主人公である貴方を引き立たせる、通行人Aくらいの位置にしたいなというのが希望です。

重富ビール、飲みたくなったでしょ?

鈴木正晴さん プロフィール

株式会社日本百貨店 代表取締役社長
日本百貨店 ディレクター兼バイヤー
群馬県桐生市 PR大使

1975年神奈川県生まれ。1997年東京大学教育学部卒業後、伊藤忠商事㈱に入社。アパレル関連の部門で、素材、生産から小売部門まで幅広く担当。その後、ブランドマーケティング事業部にて、各種国内外のブランディングの仕事に携わる。海外とのやり取りを日々行う中で、逆に日本国内の商品および文化の価値を再認識。国内の“モノづくり”文化に根差したすぐれものをより広いマーケットに広める一助となりたいと考え、2006年3月伊藤忠商事を退社。同年4月に株式会社コンタンを立ち上げ、made in JAPAN商品の海外輸出、国内外のブランドのブランディング業務を行う。 2010年12月には東京・御徒町に、「日本百貨店」をオープン。2013年9月に吉祥寺、2014年3月にたまぷらーざ、同年7月に池袋、2016年3月に横浜赤レンガ倉庫に出店。また2013年6月には食品専門の「しょくひんかん」を秋葉原にオープン。食・雑貨・衣料雑貨など、全国から様々なこだわりの商材を集め、作り手と使い手の出会いの場を創出し続ける。 直営店7店舗に加え、店舗コンセプトのプランニングや出店サポートの業務や、全国各地の小売店に“日本のスグレモノ”の卸販売も行う。著書に「日本百貨店」(飛鳥新社)、「ものづくり『おもいやり』マーケティング」(実業之日本社)がある。