
この連載は、umamiのおべんきょうprojectが注目している、野菜若手農家のキレドさんが担当します。キレドさんは千葉で150種もの野菜を育てている野菜農家さんで、今回は自己紹介がてら、umamiのおべんきょうprojectを主催している“やまや”の『うまだし』を使った、簡単でおいしいレシピも紹介してくれました。
photo by Shuhei Yoshida
あたたかくなってきたと思ったら厳しい寒さがやってきて、今度は5月並みのあたたかさとめまぐるしい天気が続いています。私もひさしぶりに風邪をひきました。みなさんは体調だいじょうぶですか?
今日はそんな体調をくずしやすい時期だからこそ食べてほしい、栄養満点でかつとってもおいしくおもしろい野菜、プチヴェールのご紹介です。
最近は直売所でも見かけるようになったプチヴェールですがまだまだ珍しいようで海外の野菜のように思われている方が多いそうですね。実は20年以上前から日本で作られている「ケール」と「芽キャベツ」をかけあわせた野菜です。
芽キャベツもケールも決してメジャーな野菜ではありませんね。芽キャベツというのは小さなキャベツが太くなった幹にポコポコとできる野菜で、ベルギーが原産と言われています。英名はブリュッセルスプラウト。ブリュッセルはベルギーの首都ですね。
ひとつひとつがきゅっとしまった芽キャベツに対し、プチヴェールは開いています。この美しいバラのような姿がプチヴェールの特徴です。
ケールは言わずと知れた青汁の原料です。最近ではスムージーにして飲まれることも多く健康野菜の代名詞的な野菜ですね。このケールとの掛け合わせでできた野菜ですから、栄養価が高いのは当然です。
栄養価が高く、おいしいとなれば言うことありません。みなさんにもどんどん食べてもらってもっとメジャーにしてほしい野菜ですね。
○夏が苦手だが夏に植えないと大きくならない
プチヴェールは寒さには強いのですが暑さが苦手な野菜です。好きな温度帯が20度くらい。なので、できれば9月くらいに植え付けてあげたいところなのですが、11月下旬に霜が降りるキレドの畑のある千葉県北西部では、9月の植え付けでは大きくなりきれず、小さなプチヴェールしか収穫することができません。
そのため、7月中旬のとても暑い時期に苗を植え付けています。
毎年、本当にごめんなさいと言いながら植え付けていますが、毎年なんとか乗り切って大きく育ってくれています。家庭菜園などで芽キャベツやプチヴェールの栽培を失敗する人は、たいていこの植え付け時期を間違っているのが原因だと思います。参考にしてみてくださいね。
サイズ的には11月下旬から収穫できるのですが、霜に当たれば当たるほど甘味がのるプチヴェールは1月下旬からが一番おいしいです。非常に寒さに強いのが特徴で、霜が当たったくらいでは平気な顔をしています。
収穫にはまず大きな葉を取り除き、葉の付け根から生えているプチヴェールを太い茎からはがすようにします。
またとりのぞいた大きな葉はケールと同様に食べることができます。生でスムージーにしてもいいですし、焼いたり煮込んだりしてもおいしいです。
11月下旬にはできてしまうプチヴェール。早く食べたいですよね。でもここはぐっと我慢して味見程度に食べることにして少なくとも1月下旬までは待ってみてください。焼いただけでとってもおいしいプチヴェールに出会えるはずです。
2月の寒さから3月の暖かさを受けると、一年草の多くは種を作るのに虫に受粉してもらうため、成長点から茎を伸ばし花を咲かせます。野菜はその多くが一年草に分類できます。菜花を想像してもらえたらわかりやすいと思います。アブラナ科やセリ科の野菜はとてもわかりやすく真ん中の成長点に蕾をつけて茎を伸ばしていきます。
プチヴェールはまずいちばん先端の成長点から大きな蕾を出します。プチヴェールのことを考えればこのまま伸ばしてあげたいところですが、ここがとても柔らかくておいしくて。。。そのためキレドではこの部分を収穫してしまいます。ここをトップヴェールと呼んでいます。(勝手に)
花を咲かそうとしていた成長点のトップヴェールはいわば種をこぼすために準備していた部分です。そんな大切なところを取られてしまったプチヴェール。このあとどうなると思いますか?
なんと、脇芽の新しい成長点を伸ばして花を咲かそうとするのです。
一年草のほとんどがこのように振る舞うのですが、プチヴェールや芽キャベツは特殊な野菜でたくさん成長点を持っています。成長点の数だけたくさんの茎を伸ばして多くの花を咲かせようとします。トップヴェールをとったことでたくさんの成長点を伸ばそうとするのです。
そして、なんとこの茎がとても甘くておいしいのです(笑)。取り放題状態のうれしいことといったら!この茎の部分をスティックヴェールと呼んでいます。
キレドが大切にしている「野菜の一生を見る」という視点だからこそ出会えた姿です。プチヴェールを家庭菜園などで作っているみなさんには、プチヴェールを全部収穫したからといって片付けたりせず、スティックヴェールまで見てあげてほしいです。1つの野菜でこんなに楽しめるのかと、野菜づくりのおもしろさに触れてもらえると思います。
千葉県四街道市育ち
九州芸術工科大学大学院芸術工学専攻修士課程修了
学生時代の6年間を福岡市、ソフトウェアエンジニア時代の6年間を金沢市で過ごす。
金沢市在住中に親友の紹介で室矢シェフ(現イルガッビアーノ)、澤田シェフ(現オーミリュードゥラヴィ) と出会う。知らない野菜を数多く使った料理を食べ野菜の奥深さを知る。
その後、シェフに直接野菜を卸している白山市の農家中野禧代美さんの畑で梨のような大根を 食べてから人生が変わる。以降、おいしい野菜を求めて会社勤めをしながら家庭菜園をスタート。
約2年間、中野禧代美さんに師事。
農業を本業としたい気持ちが抑えられなくなり12年ぶりに故郷千葉へ戻ることを決意。
千葉県八街市のシェフズガーデン エコファームアサノにて浅野悦男さんに師事。
2011年、エコファームアサノ内で野菜と畑の個人宅配「キレド」を開業
2012年の終わりに地元である千葉県四街道市に移転し独立。現在、約150種類の野菜・ハーブを栽培している。
2013年7月、野菜のファストフードの移動販売「キレドファストベジタブル」を開業。
2015年4月、工房兼店舗「キレドベジタブルアトリエ」を千葉市若葉区小倉台に開業。
http://www.kiredo.com