味博士の子供とうまみ教室 Vol.4
〜うまみと子供の未来予想図〜

umamiのおべんきょうprojectの連載は、
農家さんや料理家さんなど食の現場に関わる方々から
“おべんきょう”になるお話しをうかがいます。

“味博士”としてテレビや雑誌でもおなじみ、味覚の研究者・鈴木隆一さんによる、子供と味覚に関する連載です。子供の味覚を鍛えるには? 子供はどううまみを認知しているの? といった疑問を、科学的な見解から紐解いていきます。

離乳食期にだしを使い分ける方法

離乳食期におけるだしの活用は、赤ちゃんの発達段階に応じて、素材の種類を変えてあげるといい。さまざまな素材と上手に付き合うことで、赤ちゃんの味覚体験を広げてあげることができるからだ。

離乳食期は、初期・中期・後期と、3つの段階に分けられる。新生児の内臓機能の成長に合わせて、どの素材でだしをとるべきかを順番に見ていこう。

離乳食初期(生後5~6ヶ月頃)

おかゆや野菜のポタージュなど、素材の味を生かした食事が必要な時期だ。そこで活躍するのが昆布だし。母乳と同じグルタミン酸を豊富に含有するため、赤ちゃんにとって食べやすい味。また、アレルゲンとなり得る成分も少なく、安心して食べさせてあげられるのも嬉しい。

離乳食中期(生後7~8ヶ月頃)

この頃になると食への興味も増してくるので、魚や肉など、いろんな味にチャレンジできるようになる。この時期には、昆布と鰹の合わせ出しがオススメだ。ただし、鰹はアレルギーが出る場合もあるので、まずは食べやすい白身魚で魚に十分慣れてから、徐々に鰹だしを試すといいだろう。

離乳食後期(生後9~10ヶ月頃)

最後は煮干だし。煮干しには塩分が含まれているため、調味料の摂取が可能となる離乳食後期にチャレンジしてほしい。煮干のうまみ成分であるイノシン酸は、鰹にも含まれているものなので、鰹だしに慣れた後に味わう機会を作ってあげると、赤ちゃんも受け入れやすいだろう。

このように、発達段階に合わせてだしの素材を上手に選ぶことで、だしの味わいを広く学習することができるのだ。人間は、食べ慣れた食材に安心・安全のおいしさを感じるようにできている。早い段階から「自然の風味を最大限に生かす」日本の食文化を、ぜひ繰り返し経験させてあげたいものだ。

うまみを敏感に感じる舌を持つ日本人

日本人の味覚は、世界でも類を見ないほど繊細で、特にうまみに関して敏感な舌を持っている。その進化はもちろん、日本が古くから海洋資源が豊富で、かつ農耕に適していた風土であったことと無縁ではない。

人間は常にその環境に応じて、食べられるものに味覚を適応させてきた。日本で肉食があまり発達せず、動物性たんぱく質の摂取を主として海産物に頼っていたことは、我々が独自の味覚進化を遂げた大きな要因である。なかでも、だしの素材である昆布や鰹、煮干しなどがすべて海産物であるのは、見逃せない事実だ。

たとえば、羅臼昆布に含有するうまみ成分・グルタミン酸は、100gあたり2290~3380mgと極めて多い。その次に多いのがパルメザンチーズの1200~1680mgで約半分。羅臼昆布ほどうまみが強い食材は他にないというわけだ。また、鰹節や煮干しに多く含まれるイノシン酸も、魚類以外の食材にはほとんど含まれていない。豚・鶏肉の成分として確認されてはいるものの、それでも鰹節と比べ3分の1ほどの含有量だ。

韓国や中国などの東アジア地域と、イギリスの一部地域を除いて「海藻を習慣的に食べる」文化を持っている国はほとんどないし、魚をこれほど食べる民族も他に見当たらない。

また、発酵食品もうまみの強いものだ。特に大豆の発酵調味料である味噌や醤油には、グルタミン酸が多く含まれている。日本では、淡白な白米をおいしく食べるために、発酵食品が好まれ発達したようだが、実は、発酵食品を食べる習慣を持つ国も少ないのである。

日本人がうまみ成分に敏感な舌に育った理由は、毎回の食事において、日常的にうまみを味わう環境と習慣を昔から持っていたというわけなのだ。

日本のうまみが世界のUMAMIに

とはいえ、外国人がうまみを感じられないわけではない。海外には昆布のような力強い食材こそ存在しないが、料理にうまみを加えるための、さまざまな調理法が開発されてきた。

たとえばフランスでは、フォンやブイヨン・コンソメのように、うまみの多い食材を重ねて味のベースを作る文化があるし、イタリアでは、トマトや玉ねぎ、チーズなどを一緒に調理することでうまみを補強してきた歴史がある。肉から出る煮汁もうまみそのものといってよい。素材同士の組み合わせ方によっては、30倍ものうまみが出ることもある。

うまみの概念が世界的には認知され始めたのは、味蕾にある感覚細胞にグルタミン酸受容体が発見された2000年以降なのだが、その味わいは各文化で古くから認識されていたというわけだ。

2017年3月に東京・青山に上陸した〈UMAMI BURGER(ウマミ バーガー)〉をご存知だろうか。アメリカで高い人気を誇るグルメバーガーチェーンなのだが、この店では、うまみを最大限に引き出す調理法で作ったハンバーガーを提供している。

看板メニューの「ウマミ バーガー」は、カリカリに焼いたパルメザンチーズ、ローストトマト、椎茸など、うまみを多く含む食材の掛け合わせによっておいしさを工夫。調味料も昆布や鰹のだしや、醤油、海鮮醤、干しキノコなどを調合したものを合わせている。

日本のユニークな文化として発達してきた和食の知恵が、今や海外で理解され逆輸入される現代。このままいけば、だしや発酵調味料が、西洋文化圏でもっと積極的に取り入れられる日もそう遠くはないだろう。その頃には、離乳食期にだしの味を十分味わったあなたのお子さんが、世界の食の現場で活躍している、なんてこともあるのかもしれない。

< 参考 >
http://kosodate-mamaplus.com/rinyushoku-dasi/
https://mugyuu.jp/akachan-rinyushoku-ajitsuke
http://shoku.hapiku.com/column/004/mikaku-002/
https://www.umamiinfo.jp/richfood/
https://www.lifehacker.jp/2012/12/121219umami_booster.html
http://amazing-french.com/how-to-make-umami1-424
https://www.jstage.jst.go.jp/article/cookeryscience/43/2/43_131/_pdf
鈴木隆一さん プロフィール

AISSY株式会社
代表取締役社長 慶應義塾大学共同研究員。慶應義塾大学理工学部卒、慶應義塾大学大学院理工学研究科修了。味覚センサーレオ開発者。味博士として多数のメディアに出演し、活動の幅は多岐にわたる。著書には『日本人の味覚は世界一』『味覚力を鍛えれば病気にならない』など。味博士の研究所を運営。
https://aissy.co.jp/
https://aissy.co.jp/ajihakase/blog/