十人豆色~とうふのうまみ旅~
vol.18 明日を語らう、豆腐屋たち。

豆腐の原料は、大豆・水・にがり。
シンプルだからこそ、繊細な手作業が仕上がりを大きく左右し、作る人の「人となり」や「考え」、その日の「気分」までも、鏡のように映し出すのだと、職人さんは言います。
だから豆腐の魅力は“十人豆色”(じゅうにんといろ)。
作り手の想いあふれる豆腐との出会いを求め、各地の豆腐屋さんを往き来し、見て、聞いて、味わって、感じ取ってきた豆腐の魅力を綴ります。

 

豆腐屋の「サミット」

“山頂”を意味する「サミット」は、主要国家のトップである首脳が意見交換を行う「主要国首脳会談」を指すようになりました。
それぞれの国家という枠組みを超えて、国際社会が抱える課題について語らう非公式の国際会議として、議長国を変えながら開催されています。

実は、この「サミット」が、豆腐業界にも存在します。
その名も、「ニッポン豆腐屋サミット」。
一見、孤独なイメージのある職人の世界に「サミット」なるものが存在するというのは、ちょっと意外に感じる方もいるかもしれませんね。
製造者数の減少が続く豆腐業界の中で、若手の作り手を中心が中心となって集い、講演会やディスカッションを通じて交流を重ねながら業界の未来を語らう場として催されるようになったそうです。
2011年の東京開催を皮切りに、宮城、徳島、沖縄、京都、熊本、東京、北海道と開催地を巡回させながら、2日間の日程で開催されています。著者がサミットに参加するようになったのは、2014年の京都開催、日本一おいしい豆腐を決める「全国豆腐品評会」がスタートした年でもあります。

そして、記念すべき令和初のサミット開催地となったのが、晴れの国・岡山です。


岡山城。さすが、“晴れの国・岡山”!と、讃えたくなるほどの晴天です

 

岡山市名物・豆腐屋の定食

1日目のスタートが午後からということで、まずは寄り道をして腹ごしらえです。
地元の老舗豆腐店「豆腐処おかべ」に併設された食堂、「食事処おかべ」さんです。

 

数々のグルメ情報誌や旅雑誌で紹介されているカウンターのみの小さな食堂は、昼のみの営業ということもあって開店前から行列をつくるほどの人気店です。この日も数量限定の定食を求め、店先から店内入り口まで待機の列が絶えません。
メニューは「おかべ定食」「ゆば丼定食」「揚げ出し定食」の3種。厚揚げや揚出し豆腐は注文後に目の前で揚げてくれます。迷いに迷い注文した「ゆば丼定食」は生姜と椎茸の香りが食欲をそそり、三つ葉が上品なアクセントになっています。和風あんに包まれた生湯葉は噛む必要がないほどに柔らかく、長距離移動の疲れを癒してくれるような味わいでした。定食に添えられたほんのり甘い白和えやさっぱりとした冷奴、油揚げの入ったお味噌汁もしっかりと味わいながら満喫しました。こんな食堂が近所にあったら週に一度は通ってしまいそうです。

 

サミット開幕!

さて、本題に戻ります。

 

いよいよ「ニッポン豆腐屋サミット in 岡山」の幕開けです。
会場となったホテルからは、日本三名園のひとつである後楽園や、岡山城を一望できます。
今年ものべ200名の豆腐製造業者や大豆および資材問屋の皆さんや、運営のサポートをする豆腐マイスターが全国各地から集いました。

「おお!〇〇!一年ぶりだね〜。元気してた?」「お子さんが産まれたんだって?おめでとう!」など、久しぶりに顔を合わせた参加者同士のやりとりを眺めていると、なんだか同窓会のようです。
今回は、2日間のプログラムをダイジェストで綴りたいと思います。
豆腐屋の皆さんがこんな勉強会を開いているんだ!と知っていただけたら幸いです。

「葉っぱビジネス」に学ぶ、価値の創造

今年のテーマは「価値の創造」。
開会の挨拶が行われると、早速、一本の映画が上映されました。
映画のタイトルは『人生、いろどり』。
舞台は人口2000人以下、高齢化が進む徳島県の上勝(かみかつ)町。農協職員と女性たちが、山で採集した植物の「葉っぱ」を、料理に添える「つまもの」として販売し、年商2億円の規模にまでのぼり詰める実話をもとにつくられた映画です。
はじめは、「そんなものに売値など付くはずがない」と周囲から大反対を受けた「葉っぱ」が、いまでは年収1000万を軽く超えるカリスマおばあちゃんを生み出すほど、町の活性に欠かせない宝となったのです。
上映後、このビジネスの仕掛け人である、株式会社いろどりの横井知二氏のトークセッションが始まりました。

 

横井さんにとって、町の再生に欠かせないのは「葉っぱ」を売ることではなく、そこに住む人々の人間力を磨くことだったと言います。

「“センスがいい、稼げる、かっこいいおばあちゃんになりたい!”そんな気持ちを、町民自身に呼び起こす」
「葉っぱビジネス」によって、活き活きと働く年長者こそが、上勝町の価値そのものなのですね。

「必要とされる有り難さこそ、人生から消えることのない幸福なのです」

横井さんの言葉に、深く頷きました。

こうして1日目のプログラムが終わり、品評会の地区予選を勝ち抜いた豆腐の試食会、そして大懇親会が行われました。

 

十人豆色、これからのビジョン

2日目の講演テーマは「プロテインシフト」。
プロテインシフトとは、地球環境への負担をかけずに持続可能な社会を実現するために、タンパク質を動物性中心から大豆などの植物性へと移行する流れのことを指し、年々、ハリウッドスターの呼びかけなどにより世界的に盛んになっているそうです。

「この流れは、大豆加工品の代表とも言える豆腐を作る豆腐屋にとって大きなチャンスなのです!」と、データや映像とともに力説してくださったのは、株式会社染野屋の代表 小野篤人社長。豆腐屋の新時代を感じさせるスピーチでした。

 

その後、参加者が複数のグループにわかれて、これからの豆腐ビジネスについてビジョンや夢を語り合う討論会が始まりました。
なんと討論会テーマはこの連載の名と同じく「十人豆色」!
偶然の一致に縁を感じずにはいられません。
各グループごとに、豆腐の価値、豆腐屋の価値、それぞれの参加者の意見をまとめて発表しました。地域性を活かす豆腐店があれば、パッケージや広報戦略に重きを置く豆腐店、働き方の改善に取り組む豆腐店など、まさに十人豆色の意見やアイデアが活発に交わされていました。

「2020年はこんな取り組みを進めよう!といった、業界全体のテーマや目標を定めるべきなのではないでしょうか」

この連載にも登場した北海道真狩村の湧水の里・渡辺英人さんも、チームを代表して提言をされていました。

TOFU AWARD 2019

2日目最後のプログラムは、お待ちかねの全国豆腐品評会の結果発表と表彰式「TOFU AWARD2019」です。初夏から行われてきた地方予選を勝ち抜き、10月2日の「とうふの日」に行われた審査会の結果が、いよいよ発表されます。
地方予選から進出した143点から、木綿・絹ごし・寄せ/おぼろ・充填豆腐の各部門で、金・銀・銅賞・特別賞が選出されました。
そして、残すは2019年の日本一の豆腐、最優秀賞(農林水産大臣賞)の発表です。

「最優秀賞(農林水産大臣賞)は…宮城県、ささはら豆腐店のプチ玉です!」

 

小さな風船を爪楊枝でつつくとツルッと姿を現す充填豆腐。使用大豆は本連載でも取り上げた「香り豆」です。

「これは父が25年ぐらい前に作っていた豆腐を、去年から再び作り始めたもので、二人でつくった豆腐で取れた賞だと思っています」

 

ささはら豆腐店の店主・笹原淳さんからの優勝スピーチに、ライバル職人の方々も感動の涙を浮かべている様子でした。
品評会が豆腐の優劣をつけることが目的なのではなく、職人たちが切磋琢磨し合い認め合う機会。ガチンコ勝負の結果は潔く受け入れる、そんな“男気”を会場中から感じました。

翔け!豆腐屋!涙のサミット宣言!

恒例の締めくくりの挨拶は、開催地の実行委員代表による「サミット宣言」と呼ばれます。
梶原食品・梶原実行委員長は、昨年の「平成30年7月豪雨」によって、大きな被害を受けた岡山でサミットの開催が実現したことを涙ながらに振り返りました。本業の合間をぬって集まり話し合いを重ねながら、約一年間このサミットの実現に向けてひたむきに努力されてきた中国・四国地方の実行委員会の皆さん。会場から労いと感謝の拍手が送られ無事にサミットは閉会しました。

 

豆腐製造業者数が年々減少している中で、気軽に相談ができるような同業者がいない、先代から店を継いだもの先行きの不安が拭いきれない、そんなそれぞれの背景や心境を抱えている豆腐の作り手たち。

「豆腐屋サミット」とは、ビジネスの規模や経験値、世代を超えて、そんな豆腐屋さん同士が肩を並べて語らい、明日への活力を得るイベントです。

 

それぞれの現場に戻れば、ゴールのない豆腐作りに再び向き合う日常が待っています。
それでも、この地で共有した時間を振り返り、各地でがんばる仲間に時折想いを馳せることができることは本当に素晴らしいことだと思います。

サミット実行委員会の皆さん、本当にありがとうございました。

来年の開催地は千葉県。どんなサミットになるのでしょうか。

 

旅は続きます。

工藤詩織 プロフィール

幼少から豆中心の食生活を送り、豆腐はその中心にあり、無類の豆腐好き。外国人に日本語を教える講師を目指して勉強している過程で食文化も一緒に伝えたい と「豆腐マイスター」を取得。国内だけにとどまらず海外でも、手作り豆腐ワークショップや食育イベントを実施して経験を積む。2018年より「往来(おうらい)」をテーマに本格的に活動を開始。豆腐関連のイベント企画・メディア出演などを通して、各地で豆腐文化の啓蒙活動を行っている。


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