日本・うまみの作り手探訪
vol.1 東北に春を呼び込む納豆

鉄道会社で地域の特産品を扱うプロジェクトに携わる寺田菜々美さんが、日本各地を訪ね、そこで出会った日本の伝統食材や郷土食などの“美味しいもの”はもちろん、その土地を愛し、新たなことにも挑戦しようとする“作り手さん”の情熱や商品に込めた想いを伝えます。

 

こんにちは。
鉄道会社で店舗開発や商品企画を担当している寺田菜々美と申します。

仕事柄、出張や旅行に行く機会が多いのですが、各地域をめぐっては、ローカルの美味しものを探しまわるのが私の生業です。そこでは、モノだけではなく魅力的な作り手さんに出会えることも…。

そんな私が出会った、各地域で親しまれている“美味しいもの”とその“作り手さん”にスポットを当てて、食とそれをとりまく人の魅力を発信していきたいと思います。
「美味しいものを作っている面白い人がいると聞けば、北へ南へ、いざ行かん!」をモットーに、日本全国を飛び回ります。

さて、今回私が見つけたのは、山形で知らない人はいないという「雪割納豆」。

納豆と謳いつつ、食べてみるとびっくり。
まるで味噌のような濃厚さと複雑なうま味。
パッケージもなんともレトロで可愛いんです。

こんな納豆を作れるのは、絶対面白い人に違いない!
地産品ハンターの旅が始まります。

訪れたのは、山形県米沢市。
東京駅から山形新幹線に乗って約2時間。

米沢市は、山形県の南部に位置する置賜地方の中心地で、かつて、英国の女流旅行家イザベラバードがこの地を訪れた際には、実り豊かな大地と人情の温かさから「東洋のアルカディア(理想郷)」と称えたのだとか。

米沢駅で米沢牛の看板に目を奪われつつ、待ち合わせ場所へ向かいます。
指定された場所は、なんと、水産物の卸市場!?

「雪割納豆の佐野です、遠くまでありがとうございます」と、中から出てきたのは、佐野水産株式会社の佐野恒平さんと洋平さん。
一卵性双生児のため、そっくり!

「実は、本業は水産物の卸売なんです」と話す佐野さんご兄弟が「雪割納豆」の生産を始めたのは2014年のこと。
地元で古くから食べられてきたこうじ納豆を、「雪割納豆」として約60年前に商品化した地元企業は2014年に倒産。
このまま、置賜地方の伝統発酵食が途絶えてはもったいないと、地元で水産物の卸売をしていた佐野さんご兄弟が事業を継承し、「株式会社ゆきんこ」という名前で、雪割納豆の製造を再スタートしたそうです。

株式会社ゆきんこの社是は、「Old is New」。
「古いものにこそ現代に通じる新しい発見がある」という意味だそうです。

設立までのストーリーもさることながら、今日は大ファンの「雪割納豆」を題材に、どんな“古くて新しい”お話が聞けるのか、とても楽しみです。

早速、この納豆とは思えないような濃厚な味には何か特殊な製法があるのか尋ねてみました。
「はい、納豆菌による1次発酵のほかに、米こうじを加えて、長期間、2次発酵をさせています。
納豆菌を使っているのであくまで納豆ですが、2回の発酵過程を経ることが「雪割納豆」の製法上の特色です」

この2次発酵の過程では、厳密に温度管理された部屋でじっくりと数週間もの間、追加で発酵をさせているのだとか。

納豆と米こうじの中の酵素が働きやすい環境をつくってあげることで、たんぱく質や糖質を上手に分解してもらうことができ、アミノ酸やブドウ糖が大量に生成されて、濃厚なうま味が引き出されます。

この2次発酵の技術は、置賜地方の農家の間で昔から行われてきた独自の納豆製造方法なのだそうです。

「置賜の農家が農繁期に食べる保存食として、冬場にこたつで納豆を作り、それを米こうじと塩で長期熟成させてできたのが、この納豆の起源と言われています」

同じ大豆から作られる味噌は、江戸時代は、藩の食料政策として重要な位置付けにあったものの、
納豆に関しては、各家でつくられていたようで、昭和中頃までは、冬場に農家を訪ねると、納豆の香りが家中に漂っていたのだとか。

納豆をおいしく、より栄養価の高い状態で保存するために、塩を混ぜて水分活性を下げ、冬の自然な温度変化に任せて発酵をさせる…。

まさに「雪割納豆」は、置賜地方の風土と農家の慣習がうんだ逸品なんですね。

ところで、「雪割納豆」の“雪割”とは?

「冬に降り積もった圧雪が早くとけるようにと、雪を割って地表を露出させることを“雪割作業”と呼んでいます。長く厳しい冬から解放されて、春を呼び込む作業として、置賜地方の風物詩になっています。この雪国ならではの早春の風景、その活気と喜びにあやかり、置賜の特産品として大成できるよう、この名前がつけられたそうです」

ここ置賜地方は山形の南部に位置していて、盆地でありながら、言わずと知れた豪雪地帯。毎年人の背丈を超える積雪量があるので、春になっても固く圧縮された雪が残っているそう。
この雪が溶けたら、農作業の始まり。
そして、各家で冬のあいだじっくり発酵されていたこうじ納豆もいい頃合いに熟成され、これから迎える農繁期の大切な食料源になります。

まさに、東北に春を呼び込む納豆が「雪割納豆」という訳ですね。

パッケージも商品によって、すこしずつ表情が変わっていて、可愛いですね。

「昭和61年の発売から変わらないパッケージを使っています。版画絵なんですが、作者は不明で、なんとも言えないかわいらしい雰囲気が気に入って今でも使用しています」

雪割納豆の味のラインナップは、“赤穂の天塩”と“玄米麹”と“辛口(唐辛子)”の3種類。
受験シーズンになると通常の商品に加えて、桜シールを貼った合格祈願パッケージも作られるということ。もうそろそろ受験シーズンは終わりになりますが、粘り強い納豆に、雪割というネーミングも、縁起がいいですね。アミノ酸とブドウ糖とが豊富なので、受験生にはぴったりの栄養食です。

普通の納豆とちがい、少し塩気のある雪割納豆。山形の方はどのように食べているのでしょうか。

「塩味とうま味があるので、 しょうゆなどを入れなくてもそのまま食べられます。味噌のような感覚で、お茶漬けやおにぎりの具として使うのがおすすめです」

当日は私も雪割納豆のおにぎりをいただきましたが、この塩気とうま味は、やっぱり白米にぴったり。粘り気はあるものの、普通の納豆より臭いも強くなくて、食べやすい!
雪割納豆のレシピは「株式会社ゆきんこ」のHPでも、紹介しているそうなので、是非チェックしてみて下さい。

さて、「雪割納豆おにぎり」をいただいている最中も、佐野さんから納豆に関わるディープなお話は止まりません!

山形の歴史・文化・風習、日本における納豆の起源論、アジア圏の納豆文化について などなど。日本人なら思わず「そうだったのか!」と耳を傾けずにはいられない身近な納豆に関するトリビアの数々を伺うことができました。

改めて、佐野さんご兄弟の納豆の文化論から技術論まで、ものすごい知見の深さにびっくり。
休日になると、近くの図書館に赴いて、1日中納豆や発酵に関する文献を調べていることもあるそうで…
「実は、兄は大学で考古学を専攻、弟は哲学や民俗学に興味をもって勉強していて…」と佐野さん。

どおりで、納豆や発酵文化に対する探求レベルが普通じゃない訳です。
まさに、社是である「Old is New」を見つけるプロだったんですね。

「設立当初は、 自分たちも前会社からの職人さんと手探りの部分はありましたが、これからは、自分たちが得意とする納豆の文化的な探求はもちろん、技術的な分析もしていきたいと思っています。現在、大学の研究所や県の食品醸造部と共同で科学的な製造メカニズムの研究も進めている最中です」

「四季のはっきりしている置賜地域は、季節によって様々な表情をみせてくれるので、雪割納豆の研究成果を見に、是非また置賜にいらっしゃってください」

東北の雪深い風土の中で、農民の知恵が育んだ伝統食「雪割納豆」が、佐野ご兄弟の力を借りて再スタートを切り、これからの新しい時代に、どんな旨みと深みを増していくのか、ますます楽しみです。

また、季節が変わったら訪ねさせていただきます。
おしょうしな~(置賜地方の人が良く使う方言で「ありがとう」の意味だそうです)。

 

<株式会社ゆきんこ>
山形県米沢市中田町4790-1
http://yukinco.jp/

 

※「雪割納豆」はHPから購入可能です。
寺田菜々美 プロフィール

長野県長野市出身。実家はりんご農家で、4姉妹の長女として生まれる。小学生の頃から、味にうるさい実家のごはん係を担当していたため、食べることも作ることも大好き。大学は農学部に進学し、有機農業や自然栽培の文化論について研究。卒業後は、日本の伝統と風土に基づいた食や農業を切り口に、地域の魅力を再編し、地域にもっと人を送り込みたいと鉄道会社に入社。現在は、地産品の卸売事業を担当する部署で、たくさんの地域の美味しいものに囲まれながら仕事をしている。

日本・うまみの作り手探訪
vol.1 東北に春を呼び込む納豆