食卓に温かいスープがあるだけで、なぜかほっとして、心が和んでしまうもの。さまざまな食材の「うまみ」が溶け込み、まあるくひとつにまとまったスープは、味わい深いだけでなく、癒やし効果も絶大です。お家で簡単につくることができて、スープを身近に感じられるレシピをご紹介します。
フードコーディネーターのwatoさんが、鶏手羽のスープレシピを紹介する連載3回目は、「鶏手羽とナスのトマトスープ」。トマトスープというと洋風のイメージがありますが、かくし味に和の調味料を使っているので、ごはんとの相性もぴったり。
鶏手羽とトマト、野菜のうまみをしみじみ味わえるスープを、おすすめの食べ方とともに教えてもらいました。
まずは味のベースとなるスープストックを、鶏手羽で作っていきます。鶏手羽元は骨の髄からうまみを引き出すために、水から煮ていくのが基本。沸騰するまで強火を保ち、ふきこぼれに注意しながらアクを一気に出して取り除きます。アクを取ったら中火にして白ワイン、塩、白こしょうを加えて30分ほど、時間があれば1時間以上ことこと煮たらできあがり。時間さえかければおいしくなってしまう、魔法のようなスープのもとといえますが、多めに作って保存することも可能です。
「3日くらいで使うのであれば、手羽元をスープに入れたまま冷蔵庫へ。そうしたほうがお肉がぱさつきません。もっと長く保存したい場合は冷凍して、1か月を目安に使い切ってください」
こうやって保存しておけば、これまで紹介してきたいろんな味わいの鶏手羽のスープをさらに手軽に作ることができるので、忙しい人は特に重宝するはず。スープストックと手羽元を別にして、スープストックは好きな野菜や冷蔵庫の残り物を加えてスープに、手羽元はおかずとして楽しむこともできます。
「今回使うナス、ズッキーニ、エリンギなどの野菜は輪切りにしましたが、1cm角くらいに小さく切るのもおすすめです。野菜の大きさをそろえると、火の通りが均一になりますよ。具材をアレンジする場合はミネストローネのような感覚で、冷蔵庫にある野菜なら大体OK。豆類もいいですね」
鶏手羽のスープに、切った野菜とカットトマトを入れて15分ほど煮ていくのですが、このとき一緒に加える意外な調味料が、醤油とみりん。
「醤油もうまみのひとつ。かくし味としてちょっぴり入れるだけで味が引き締まるし、実はトマトとすごく合うんです。トマトのスープって自分で作ると、酸味が気になったり、味が深まりにくいと相談されることがあるのですが、そんなときに醤油やみりんはとても便利な調味料。みりんはトマトの酸味とほかの野菜のうまみをつないで、まろやかさと奥深さを出してくれます。鍋のなかにいるみんなを仲良くしてくれる、頼れる子ですね(笑)」
スープやソースなどを手軽に作ることのできる食材として、水煮トマトの缶詰を利用する人は多いと思いますが、「トマト味」をよりおいしくするポイントが。
「水煮トマトはすでに火が通っていますが、ほかの野菜と一緒にきちんと煮込むと、まろやかさや甘みが出てきて断然おいしくなりますよ」
できあがったスープにパルミジャーノレジャーノなどのチーズや、トマトと相性のいいバジル、オレガノ、ディルなどのドライハーブをトッピングすると、さらにうまみがアップして本格的な味わいに。このままスープ単体で食べてももちろんおいしいのですが、カレーのようにごはんにかけて食べるのも、おすすめだそう。
「スープにはパン、というイメージがあるかもしれませんが、かくし味に醤油やみりんを加えているからか、このスープはごはんにも合うんです。おみそしるのようにごはんと一緒に食べたり、深皿にごはんを盛り付けてスープをかけてリゾットみたいにしたり、いろんな食べ方を試してみてください」
具だくさんなので、白いごはんがあればそれだけでごちそうに。とろみが強くないので、サラサラといただけます。簡単なのにこくがあって、飽きのこない味わいです。
3回にわたって紹介した鶏手羽のスープは、どれも少ない量をその都度つくるよりも、ある程度まとめてつくったほうがおいしくなるものばかり。ことこと煮込むことで鍋のなかのうまみがひとつにまとまる、スープだからこそといえるでしょう。さらにwatoさんは料理をする心がまえとして、こんなエピソードをお話してくれました。
「以前、実験的な料理教室で、『おいしくなあれ』と言いながらつくるチームと、『めんどくせー』って言いながらつくるチームに分かれて、同じ料理をつくってみたことがあるんです。そしたら、〈おいしくなあれチーム〉の料理はマイルドな味わいになって、〈めんどくせーチーム〉の料理は見た目も味もワイルドに(笑)。『めんどくせー』と言いながら作ると、まずくなるわけではないのですが、料理に対して集中力が欠けてしまうんでしょうね。『おいしくなあれ』と思うことで生まれる効果は、絶対にあると思います!」
スープには愛情といううまみも、必要不可欠なのかもしれません。
管理栄養士、フードコーディネーター、イラストレーター。岩手県出身、東京都在中。雑誌、webでのレシピ紹介のほか、「wato kitchen」としてケータリングやイベント出店を行っている。生まれ故郷である岩手県の一関コミュニティFMで『watoのおむすびラヂオ』(毎週金曜19:30~19:55)のパーソナリティーも務める。著書は『リトルギフト』(サンクチュアリ出版)、『春夏秋冬ごはん帖』(ヴィレッジブックス)など。最新刊はスープづくりのコツや、アレンジのヒントが満載の『ことこと、スープ。』(光文社)。
ブログ「wato kitchen」 http://blog.watokitchen.com/