稲作が日本に伝わって三千年。お米は日本人の主食として長い間食べられてきました。そして、ごはんを引き立てるために生まれた素材の持ち味を活かしたおかずや汁物。このコラムでは、ごはんと一緒にいただきたい「うまみ」ある一品をご紹介します。
献立をたてて、それに合わせて材料を使い切るのはなかなか難しいもの。特に野菜はどれも少しずつ余らせがちです。特に余らせてしまうのが、人参、玉ねぎ、じゃがいも、大根、長ねぎ、キャベツなど、何かと出番の多い根菜や葉物野菜。冷蔵庫に使い残した野菜が増えたかなと思ったときは、それらを使って野菜スープをよく作ります。
それでは冷蔵庫をのぞいて、余っている野菜を探してみましょう。
人参、長ねぎ、キャベツ、長芋がありました。長芋は火を通すと粘りは無くなってしまいますが、生とは違った食感が楽しめるのでおすすめです。
具材にする野菜はどんな組み合わせでもかまいません。人参のかわりにじゃがいもでもよいし、長ネギのかわりに玉ねぎでもよいし、キャベツのかわりに白菜でもよいし、長芋のかわりに大根でもよいです。切り分ける大きさは、歯ごたえが残るように1.5㎝角にそろえます。野菜はいつも同じものが余るとは限りませんが、同じ大きさに切りそろえてしまえば、それほど気になりませんし、火の通りもよくなります。
スープのベースは昆布だしです。
一般的な昆布だしのとり方といえば、水の状態から昆布を入れ火にかけて、沸騰直前に取り出すという方法。おいしいだしが出ますが、火加減を見極めるために鍋に張り付いているのも面倒なものです。
そんな時には水出しの昆布だしがおすすめです。ポットに1リットルの水と昆布10gを入れ、冷蔵庫で一晩おくと、十分においしいだしがとれます。昆布の種類によってだしの出方が異なりますので、味が薄いなと思ったら昆布の量を増やしてみてください。これを常備しておくと、いろいろな料理に使えてとても便利です。
昆布だけでも十分うまみのあるスープができあがりますが、そこにベーコンも加えてみます。ベーコンは豚肉を塩漬けして燻製にしたものですが、西洋料理ではベーコンをそのままいただくより、スープのだしとして使われることが多いのだとか。いうなれば、西洋料理における鰹節のような存在です。
ベーコンには、ロース肉でつくったロースベーコン、肩肉でつくったショルダーベーコン、といくつか種類がありますが、スープ用にはバラ肉のベーコンがおすすめです。じっくりと加熱し、バラ肉の脂のうまみを十分にひき引き出すことによって、ぐっと深い味わいになります。
ベーコンを炒めると、メイラード反応と呼ばれる化学反応が起こります。ベーコンに含まれるアミノ酸と糖が加熱によって、茶色く色づき、さまざまな香り成分を生み出す反応です。じっくりと脂肪分が溶け落ちる香りは魅惑の香り。こんがりと焼けたベーコンは食欲をそそります。
ベーコンからでた脂とうまみを刻んだ野菜に染み込ませて、完成までもう少しです。
昆布のうまみ成分はグルタミン酸、ベーコンのうまみ成分はイノシン酸。このふたつがあわさると、それぞれを個別でだしをとったときよりも相乗効果でうまみが強く感じられます。昆布とかつお節なら和の組み合わせですが、昆布とベーコンの和洋折衷コンビもなかなかいけます。もちろん、野菜からもよいだしがでます。
これだけうまみが重なっていると、塩・こしょうはほんの少し、味をととのえるぐらいで十分です。料理をおいしくいただくためには塩分が必要ですが、かといって減塩した料理は味気ないもの。うまみを上手に活用すると、おいしさを損なわずに簡単に減塩することもできます。
「ああ、こういうスープが飲みたかったなぁ」と、体をほっと温めてくれるうまみたっぷりの野菜スープ。木枯らし吹く寒い夜に、ちょっと疲れたなと思う週末に、あたたかい一杯いかがですか。