この連載は、umamiのおべんきょうprojectが注目している、野菜若手農家のキレドさんが担当します。キレドさんは千葉で150種もの野菜を育てている野菜農家さんで、今回は自己紹介がてら、umamiのおべんきょうprojectを主催している“やまや”の『うまだし』を使った、簡単でおいしいレシピも紹介してくれました。
photo by Shuhei Yoshida
夏まっさかり、夏野菜の季節がやってまいりました。この1ヶ月まったく雨が降らない千葉の畑ですが、雨が嫌いなトマト、暑いのが大好きなオクラやかぼちゃはすくすく育っています。なすやパプリカなどの適度に雨も必要な野菜も、水やりをせず育ててきたせいか、たくましくこの雨のなさを耐えています。
この水やりをしないということがおいしい野菜づくりにはとても重要です。毎日盲目的に水やりをしているようでは野菜が水分を求める作業をなまけ、生命力のない、味も香りもぼけた野菜になります。家庭菜園をされている方はぜひ野菜の生命力を信じて厳しく育ててあげてくださいね。
さて、今回紹介するのはオクラという野菜です。オクラはアフリカ原産の野菜で、インドからヨーロッパ、中米、南米まで世界中で生産されている野菜です。実の成長が非常に早い野菜で、1日に3cm~4cmも大きくなります。収穫できるようになったら1日たりとも気が抜けません!
オクラにはいくつか種類があるのですが、さやの形で大きくふたつにわけることができます。ひとつは五角形のさやのオクラ、もうひとつは丸いさやのオクラです。キレドでは丸いさやのオクラを作っています。
五角形のオクラは形がとても可愛らしいですね。スーパーで見かけるオクラはほとんどがこの形をしていると思います。このオクラは可愛らしいのですが、長さが8cm程度で収穫をしなければいけません。その大きさを超えるとたちまち実が固くなり食べれなくなってしまいます。
みなさんはこの五角形のオクラをどのようにしてめしあがりますか?おそらくは熱湯で湯がいてから使っているのではないかと。そのあとは板ずりですか?そのあとはそのままマヨネーズをつけて食べますか?それとも刻んで納豆などに入れたりですか?
オクラの使い方をみなさんに聞くとたいていはこの同じような答えが返ってきます。なんともワンパターンなオクラの使い方ですね。オクラを作っている身としては大変残念な話です。
対して丸いさやのオクラはその実の柔らかさが最大の特徴です。収穫時の気候にもよりますが、長さが15cm以上になっても柔らかいままなので五角形のオクラよりも大きくして食べることができます。実を大きくできると使える料理の幅が広がるんです。
特におすすめなのがグリルです。縦に半分に切って切り口を下にしてフライパンで強火で焼いていきます。五角形のオクラのように実が小さいと乾燥しすぎてしなしなになってしまいますが、ボリュームのある丸さやのオクラならとてもジューシーに仕上がります。フライパンでオクラに焦げ目がつくまで焼いたら、オクラを熱いフライパンに載せたまま魚醤を少し垂らしてよくフライパンを揺すります。すると、魚醤の風味がオクラにつくと同時に熱々のフライパンで焦げた魚醤の香りがオクラだけでなく部屋中に広がり・・・。
まちがいない一品のできあがりというわけです。
オクラといえば緑色を思い浮かべると思いますが、赤い品種もあります。五角形のも丸いさやのもあります。赤いオクラの良さはなんといってもその美しさです。
見るからにおいしそうな赤オクラですが、火を入れると茶色っぽく変色してしまいます。なので、残念ながら茹でたり焼いたりといった調理には向きません。「オクラを茹でれないだって?それじゃどうしようもないじゃないか!」という声がほうぼうから聞こえてきそうですが、そんなことはないんです。
キレドのオクラはアクがなく生で食べることができるからです。
キレドではなるべく肥料を少なくして、海のものをたくさんまいて土作りをしています。そうすると、少ない肥料分でも野菜がたくましく育ち、アクのない野菜になります。アクのない野菜はそのまま生で食べてもおいしく食べることができるんです。
それに、アクがなければ湯通ししたり水に晒したりと、野菜からうまみが逃げてしまうような調理を避けることができます。味だけでなく栄養の観点から見てもアクがない野菜にはいいことがたくさんあるんです。
赤いオクラを見かけたら、このうまみと栄養の話とキレドを思い出してもらえたらとってもうれしいです(笑)。
オクラは花が咲き、花が枯れ落ちてから実がなる実もの野菜ですが、その花もおいしく食べることができます。
とりたてでしたら咲いているものを食べることができるのですが、輸送には向かないため、キレドでは輸送に耐える「つぼみ」の状態で収穫します。
このつぼみを分解するときれいな貝殻のような花びらが5枚出てきます。
これを生で食べることができるのですがどんな味がするか想像できますか?
とてもシャキシャキしていて、それなのにしっかりオクラのぬめりと香りも感じるんです。サラダはもちろん、魚のムニエルなどに1枚のっているだけで、見た目も味も大きく変わってきます。
成長すると人の背丈を超えてくる
花まで食べれることに気づくことができれば、また新しいオクラの側面を知ることができます。こうした普段は食べない部位のこともよく観察し、食べてみたりすることをキレドでは「野菜の一生を見る」と言っています。
オクラに限らず、野菜も人間に食べられるために生まれたわけではなく、その多くは本来、一年草としての一生があります。芽吹き、葉を増やし、茎を伸ばして花を咲かせ、虫に受粉してもらい種を作る。種が完熟することで使命を終えて枯れていきます。
その過程のなかで、いかに「おいしい」「おもしろい」ことに気づくことができるか。その観察眼と発想こそ、キレドの真骨頂と言えると思います。
オクラを題材にさまざまなお話をしましたが、私はオクラが苦手です(笑)。いえ、正確には苦手でした。ぬるぬるするものが苦手な私は、湯がいてぬるぬるが最高潮に達したオクラは今も食べることができません。
でも自分が作った丸さやのオクラを生で食べて、はじめてオクラをおいしいと思いました。ボリュームがあるからと試しに焼いてみたらこれもまたおいしい。生か焼くかではぬるぬるをあまり感じずに、オクラの甘みと香りを強く感じることができたのです。
オクラが苦手な人にはぜひ1度はキレドのオクラを食べてみてほしいなと思います。オクラの概念が変わると思います。
もちろん、オクラが大好きな人にも食べてみてほしいですよ!