稲作が日本に伝わって三千年。お米は日本人の主食として長い間食べられてきました。そして、ごはんを引き立てるために生まれた素材の持ち味を活かしたおかずや汁物。このコラムでは、ごはんと一緒にいただきたい「うまみ」ある一品をご紹介します。
家に帰って食べるものが何もない! そんなときにこれさえあればなんとかなる、という救世主のような食材が卵です。
思いつくままに卵料理を挙げてみると、ゆでたまごに目玉焼き、オムレツ、スクランブルエッグ、卵とじ、茶碗蒸し、それに、たまごかけご飯。卵が主役の料理だけでもすぐにいろいろと思いてしまいます。他の食材との組み合わせを考えれば、そのバリエーションはさらに広がるでしょう。
卵は、安価で簡単に調理ができ、消化・吸収にも優れている素晴らしい食材です。完全食品といわれるほどその栄養価は高く、たんぱく質とビタミンが豊富。また、悪玉コレステロールを溶かし動脈効果を予防する働きのあるレシチンや、抗酸化作用があるカロチノイドなどの機能性成分も含んでいて生活習慣病の予防にも効果があるとか。もちろん、うまみ成分のグルタミン酸も卵黄に多く含まれています。
さて、味よし、栄養よし、調理法が豊富な卵をどのようにいただきましょうか。
卵に多く含まれているたんぱく質は、熱を加えると固まるという性質を持っています。卵黄と卵白では固まり温度が異なり、卵黄は65℃で固まり始め、70℃で完全に固まり、卵白は58℃で固まり始め、80℃で完全に固まります。
また、卵白をかき混ぜると、細かい空気を包み込んだ泡ができます。この空気を含んだ泡を加熱すると空気を包んだまま膨らませることができます。
熱で固まり、空気を含んでふっくらと膨らむ卵の特徴を活かして、今回は「だし巻き卵」を作ろうと思います。
だし巻き卵は、溶き卵にだし汁を加え、少しずつ焼き固めた料理。だし汁の割合は目指す仕上がりによって異なりますが、飲食店でプロの料理人がつくるだし巻き卵は、だし汁が多く、箸で持ち上げるとだしが滴り落ちるほどやわらかいです。
しかし、だし汁が多いと巻きづらくなるので、家庭で作るのであればそこまでこだわる必要はないでしょう。手軽に作れる範囲でいろいろ試しながら作れるのが家庭料理のよいところです。
だし汁は、かつお節と昆布の合わせだし。和食の基本ですね。かつお節にはうまみ成分のイノシン酸が、昆布にはイノシン酸が多く含まれています。このふたつを掛け合わせると、それぞれの食材を個別に味わったときよりも何倍のうまみを感じることができます。
だし巻き卵で使うだし汁は少量ですから、このために改めてだしを引く必要はありません。汁物用で引いただしを小分けに分けて冷凍保存しておくと、このような料理の時にとても便利です。最近では、化学調味料無添加の粉末状の本格だしもありますので、そちらを使ってもよいでしょう。
卵をしっかりと溶きほぐし、だし汁を加えたあと、ざるでこすと焼き上げたときの口当たりがとてもなめらかになります。溶きほぐしたといっても卵白の固まりは意外と残りがち。必ず必要な手順ではありませんが、この一手間を加えることでさらにおいしくなります。
焼き加減は、常に半熟をイメージで。卵料理は火加減が最も大事なポイントです。火加減は中火で、卵が完全に固まらないようやわらかさをキープしましょう。卵焼き器のふちがうっすらと固まり始めたら、卵を巻き始めるタイミング。中央部分が半熟でしっとりしていても大丈夫です。
素早く手前に巻いたら、残りの卵液を追加します。箸で持ち上げて卵焼きの下にもしっかり卵液を流し込むと、結着がよくなり巻きやすくなります。だし汁が多いと卵がくずれやすいので、慣れないうちはだし汁の割合を減らして試してみてください。
焼きあがったら、まきすで包んで形を整えてできあがりです。
ちょっとした加減でグッとおいしくなるだし巻き卵。卵とだし汁。シンプルな材料の組み合わせなので、何度でも試してみることができます。上手く行ったり、時には失敗したりすることもあるでしょうが、それもまた家庭料理の楽しみ。おいしいだし巻き卵を目指して、実践あるのみです。
試作係(調理担当)のしらいのりこ、試食係(企画・執筆担当)のシライジュンイチ、夫婦ふたりによる炊飯系フードユニット。「おかわりは世界を救う」の理念のもと、日夜ごはんを美味しく味わう方法を生み出し、発信を続ける。お米やごはんに関するワークショップや料理教室を開催するほか、雑誌などを中心に様々なメディアにてごはんレシピを発表。著書『忙しい朝でもすぐできる ごはん同盟のほぼごはん弁当』(家の光協会刊)が好評発売中。
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