vol.6 いりこめしの話
「地味な見た目、滋味なおいしさ」
~いりこと根菜の炊き込みごはん~

稲作が日本に伝わって三千年。お米は日本人の主食として長い間食べられてきました。そして、ごはんを引き立てるために生まれた素材の持ち味を活かしたおかずや汁物。このコラムでは、ごはんと一緒にいただきたい「うまみ」ある一品をご紹介します。

いりこのうまみを最大限に引き出す捌き方

我が家のお味噌汁の定番は、いりこのだし。かつおぶしや昆布でもだしをとりますが、いりこは、だしをとるのが簡単なので登場する機会がとても多いのです。「いりこ」とは、カタクチイワシの煮干しのことで、西日本でそう呼ばれることが多いようです。私たちの出身地の新潟では、そのまま「煮干し」と呼んでいました。

こちらが、いりこ。魚体の大きさに応じて区分されていて、それぞれ「大羽(おおば)」「中羽(ちゅうば)」「小羽(こば)」といった呼び名があります。
いりこ用のカタクチイワシには、脂がのっていない夏場にとれたものが向いています。脂があると酸化しやすいので、変色したり味が落ちたりするのだとか。カタクチイワシは水揚げ後にどんどん鮮度が落ち、うまみ成分のイノシン酸が分解されてしまうので、いかに時間をかけずに加工するかが最も重要になります。そのため、港に水揚げされたカタクチイワシはすぐに茹でられ、一気に乾燥されます。
いりこの見分け方で、見るべきポイントは全体の色。新鮮なうちに加工されたいりこはきれいな銀色です。腹のあたりから黄色く変色しているものは、脂が酸化し始めたものなので避けると良いでしょう。

いりこを捌いてみました。身と骨がやわらかいいりこは、もちろん、そのまま使ってもおいしいだしがとれますが、内蔵とえらをとるとエグみの少ないだしがとれます。
頭をはずし、身を半分にします。背中側から爪をたてて割ると簡単に分かれます。腹のなかには黒い内臓の部分がありますのでこれをはずします。いりこの頭は捨ててしまう方も多いですが、実は頭からもよいだしがとれます。ですが、それにはもう一つ下処理が必要。頭の中のエラをはずします。こちらはなかなか取りづらいので、つまようじなどを使って取り出してみてください。
だしとして使うのは、この頭とふたつに割った身の部分です。さらにフライパンでパリパリになるまで炒ると、酸化が止まり保存も効きます。いりこを購入した際は、少々面倒ですが、あらかじめこの下処理をしておくと、すぐに使えてとても便利です。余談ですが、パリパリに炒ったいりこは、お酒のおつまみとしても最高です。

お味噌汁として使うなら、水出しで数時間から一晩。水1リットルに対し、いりこを20g程度いれておくと、雑味の少ないすっきりとしたおいしいだしがとれます。
急いでいるときは、いりこをそのまま鍋に入れ、火入れしてだしをとってもOKです。火入れすると、うまみの強くパンチの効いたお味噌汁になります。頭がついたままだと、あとから引き上げなければなりませんが、エラと内蔵をとって下処理済みのいりこであれば、そのままお味噌汁の具としてもいただけます。

見た目が地味なほど、おいしくみえる

「いりこと根菜の炊き込みごはん」材料とつくり方

◎材料
米 2合
いりこ 20g
里芋 4個
大根 150g(10㎝)
ごぼう 40g(1/4本)
にんじん 30g(1/3本)
油揚げ 1枚
水 400cc
(合わせ調味料)
└ 酒 大さじ2
└ 醤油 大さじ2
└ みりん 大さじ1
└ 塩 小さじ1/2
◎つくり方
1.米は研いでざるにあげ水を切り、ボウルに入れる。
2.いりこは内蔵とエラをはずす。頭と半割にしたいりこと水400ccを米の入ったボウルに入れ、1時間程度おく。
3.里芋は皮をむいて半割にする。大根、にんじん、油揚げは短冊切りにする。ごぼうはささがきにし、水にさらす。
4.土鍋に2をまるごと入れ、合わせ調味料を加えひと混ぜし、3の具材をのせて炊く。
※炊飯器で炊く場合、2の浸水時間は不要です。

今回ご紹介するメニューは、いりこのうまみをまるごといただく炊き込みごはんです。

ポイントは、いりこを一緒に水につけ、そのうまみをお米にしっかりと吸収させること。このひと手間が、おいしさを左右します。

あわせる具材は、里芋、大根、ごぼう、にんじんなどの根菜類です。もちろん、これらの野菜からもおいしいだしがでます。油揚げは炊き込みごはんとの相性もよく、より深みのある味わいになります。

炊き込みごはんをおいしく作るコツは、お米の吸水をしっかりとすること。その際に調味料も一緒に入れるとお米が水を吸わなくなるので、調味料は炊く直前に加えます。

そして、具材はお米に混ぜ込まず、お米の上にのせて炊きます。具材とお米を混ぜてしまうと熱がうまく伝わらず、お米に炊きむらができ芯が残ってしまいます。具材は必ずお米の上にのせて炊き、炊きあがってほぐす時に、ごはんと具材を混ぜ合わせます。

お米と具材を一緒に炊きあげる炊き込みごはん。その具材がいりこと根菜という、若干地味な印象はいなめませんが、地味は滋味。この滋味オールスターズが力を合わせたときのうまみのパワーは偉大です。うまみはもちろん栄養価も高いので、これだけで満足度の高い立派な一品になります。ついついおかわりをしてしまうので、炊き込みごはんは多めに炊くのがおすすめです。

ごはん同盟 プロフィール

試作係(調理担当)のしらいのりこ、試食係(企画・執筆担当)のシライジュンイチ、夫婦ふたりによる炊飯系フードユニット。「おかわりは世界を救う」の理念のもと、日夜ごはんを美味しく味わう方法を生み出し、発信を続ける。お米やごはんに関するワークショップや料理教室を開催するほか、雑誌などを中心に様々なメディアにてごはんレシピを発表。著書『忙しい朝でもすぐできる ごはん同盟のほぼごはん弁当』(家の光協会刊)が好評発売中。
http://gohandoumei.com