稲作が日本に伝わって三千年。お米は日本人の主食として長い間食べられてきました。そして、ごはんを引き立てるために生まれた素材の持ち味を活かしたおかずや汁物。このコラムでは、ごはんと一緒にいただきたい「うまみ」ある一品をご紹介します。
我が家では発酵食品をいくつか常備していますが、韓国生まれの漬物のキムチもそのひとつ。白いごはんに乗っけると、ほどよい酸味と辛味があいまって食欲がどんどん沸いてきます。卵かけごはんに少し加えてもこれまたおいしい。ついついおかわりをしてしまう、まさにごはんのお供です。
キムチの語源については諸説ありますが、「沈菜(チムチェ)」という言葉が変化してキムチになったという説が有力だそう。「沈菜」とは、野菜を塩漬けしておくと水分がでてきて、野菜自体が塩水の中に漬かる様子から生まれた言葉です。初期のキムチは単純に野菜の塩漬けにしたものだったようですが、時代が経つにつれ、さまざまな香辛野菜が加わって独特の風味を出すようになりました。17世紀以降に韓国に唐辛子が伝わり、19世紀になって結球白菜の栽培が普及し、現在のようなキムチとなります。
最も一般的な白菜キムチは、白菜を塩漬けした後に、「ヤンニョム」と呼ばれる、エビやイカの塩辛、魚醤、唐辛子、にんにく、しょうが、にら、塩、砂糖などを混ぜあわせた調味料を葉の間に挟み、空気に触れないように密閉し1晩以上漬けて作ります。
キムチのうまみの秘密は乳酸発酵。野菜についた乳酸菌が働き、炭水化物をより分子の細かい糖に、食材に含まれるたんぱく質をアミノ酸に分解して、甘みや風味を引き出します。また、乳酸菌は発酵途中で乳酸という酸性の物質と二酸化炭素を吐き出します。キムチが酸っぱく感じるのはこのため。酸味の効いたキムチはしっかり発酵ができている証拠です。二酸化炭素は材料の隙間に残っている酸素を押し出し、酸素のある環境で増える細菌やカビの発生を抑えます。乳酸発酵にはおいしさを引き出しながら、同時に腐敗を防ぐ効果もあるのですね。
そのまま食べておいしいキムチですが、調味料として使ってもよい仕事をしてくれます。乳酸菌は熱に弱いので、残念ながら加熱すると死んでしまいますが、それでも食べ物の消化吸収をよくし腸内環境を改善してくれる働きは残っています。このキムチを使って一品つくってみましょう。
本日のメニューは、鶏肉とキムチの炒めもの。つまり、鶏キムチです。キムチの炒め物といえば、豚キムチが有名ですが、豚肉を鶏肉に代えてもおいしいですよ。
一口大に切り分けた鶏もも肉は、皮目から焼きます。余分な脂肪分が溶け落ち、香ばしい香りが台所に漂ってきますね。こんがりと茶色く色づくのは、鶏肉に含まれるアミノ酸と糖が加熱によってさまざまな香り成分を生み出すメイラード反応によるものです。カロリーが気になる方は、鶏もも肉をむね肉に代えてつくってみてください。
鶏肉に火が通ったら、いよいよキムチを投入です。野菜を切ったり、下ごしらえをしたりせずにそのまま鍋にイン。保存瓶から出してすぐに使えるので、調理時間も短くすみます。しっかりと漬かったキムチの白菜はかさが減って、生野菜でいただくよりたくさんの量が食べられます。
白菜にしっかりと絡んだ漬け汁は、うまみ、辛味、酸味のバランスが抜群。この漬け汁のおかげで、後から加える調味料も最小限で済みます。今回の合わせ調味料は、しょうゆ、みりん、オイスターソースを使いました。
唐辛子の辛味に隠れて存在感は薄いですが、キムチの材料には塩辛や魚醤が使われています。そのため、同じ魚介系のオイスターソースとの相性がよく、「もう少しうまみが欲しいかな」という時に足してみると、料理全体をうまくまとめてくれます。
キムチを炒めるのはできるだけ手早くサッと。炒めすぎると水分が出てしまい、歯ごたえが悪くなってしまいます。仕上げに刻んだニラを加えてできあがり。キムチの赤とニラの緑の鮮やかなコントラストが食欲をそそります。
そのまま食べてもよし、鍋にしてもよし、肉と一緒に炒めてもよし。料理の応用範囲が広く、うまみたっぷりのキムチは、冬の食卓に欠かせない食材です。
試作係(調理担当)のしらいのりこ、試食係(企画・執筆担当)のシライジュンイチ、夫婦ふたりによる炊飯系フードユニット。「おかわりは世界を救う」の理念のもと、日夜ごはんを美味しく味わう方法を生み出し、発信を続ける。お米やごはんに関するワークショップや料理教室を開催するほか、雑誌などを中心に様々なメディアにてごはんレシピを発表。著書『忙しい朝でもすぐできる ごはん同盟のほぼごはん弁当』(家の光協会刊)が好評発売中。
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