この連載は、umamiのおべんきょうprojectが注目している、野菜若手農家のキレドさんが担当します。キレドさんは千葉で150種もの野菜を育てている野菜農家さんで、今回は自己紹介がてら、umamiのおべんきょうprojectを主催している“やまや”の『うまだし』を使った、簡単でおいしいレシピも紹介してくれました。
photo by Shuhei Yoshida
大変な雪がつもりましたね。千葉も10cm近くつもりました。金沢で6年暮らして雪に慣れている私は、雪の日の歩き方をしていない関東のみなさんを見て勝手にハラハラしています。
ビニールハウスなど設備に影響がないかとても不安でしたが、特に影響はありませんでした。ご心配いただいたみなさんありがとうございました!今回はこれからが一番おいしい時期、ちぢみほうれんそうを紹介します。
ちぢみほうれんそうは葉の厚みとその甘さがほうれんそうの中でも群を抜いています。その名の通り普通のほうれんそうよりも縮れた葉は、寒さを受けるごとにどんどん縮んでいき、そして厚くなっていきます。
ちぢみほうれんそうがスーパーで陳列されているのを見たことがありますか?普通のほうれんそうが縦に何株か一緒にパックされているのに対し、ちぢみほうれんそうは大きく平べったい1株だけがパックされています。
平べったいのはそういう形だからではなく冬ならではの現象です。9月に種を蒔き、12月から収穫がはじまるちぢみほうれんそうは寒さを受けるごとに地面に近づこうとします。これは空気中よりも土のほうがあたたかいため、土に少しでも近づこうとした姿なんです。
おかげでとても梱包しにくい形になって農家泣かせなのですが、寒さにあたればあたるほど、つまり平べったくなればなるほどおいしくなるので仕方ありませんね。
ちぢみほうれんそうは小さいときに雨に打たれすぎると途端に成長が悪くなるほうれんそうで、栽培は簡単ではありません。でも雨ばかりは農家もコントロールできませんね。いくら「降らないでください!お願いします!」と祈ったところで降るときは降る。天気とは無情なものです。
なので、種まきは2回にわけるのがおすすめです。9月上旬と中旬にわけてまけば、台風や秋雨前線によるリスクを低減できます。雨の時期によっては上旬にまいたものよりも中旬にまいたもののほうが大きくなるという一見不思議なことも起こります。
ちぢみほうれんそうはとても繊細な野菜なんです。
たびたび他の野菜のコラムでも書いていることですが、ほうれんそうも時期によってまったく違う味になります。一番おいしくなるのが2月です。霜にあたればあたるほど甘くなるため最高潮になるのが2月なんです。
12月はまだあまり霜にあたっていないので甘みにとぼしい。2月まで待つと老化して葉っぱが黄色くなっては来るのですが、軸だけでなく葉まで甘いちぢみほうれんそうに出会えますよ。
ところで普通のほうれんそうは年中スーパーで売られていますね。同じように見えるほうれんそうですが、冬と夏では全く味が違います。ちぢみほうれんそうと同様に冬が甘くおいしいですが、夏は甘みがまったくなくエグみを感じるほどです。こればかりは気温の問題で農家もどうしようもありません。
どうして夏にエグみが増すのかよくわかっていませんが、虫が多くなる季節ですから虫を寄せ付けないようにエグくなっているのかもしれませんね。
そんなわけで、一応形は年中作れるほうれんそうですが、キレドでは冬に収穫する分しか作っていません。おいしいほうれんそうしか食べたくないですからね。
ほうれんそうをどう食べてますか?といつもお客さんに聞くようにしているのですが、みなさんはどう食べていますか?
たいてい、みなさんからは「おひたし」にして食べている、と答えが返ってきます。ではそのおひたしはどう作っていますか?
ほうれんそうを熱湯にさっと通し、
水にさらして冷まし、
ギュッと絞って水気を切り、
醤油とおかかをかける。
おそらくこれがみなさんの答えだと思います。
まぁ普通だよなと思っているみなさんはちょっとよく考えてみてください。もう一度おひたしの工程をみなおしてみてください。野菜の立場に立ってよく考えてみてください。
ほうれんそうを熱湯にさっと通し、
熱湯に通すとほうれんそうがくたくたになりますね。ほうれんそうを通したあとの熱湯を見てみてください。たぶんお湯が緑色になっていると思います。緑色になっているということは栄養素がほうれんそうから溶け出たということを意味しています。みなさんはまずほうれんそうからアクと一緒に栄養素まで出しているわけです。
水にさらして冷まし、
水にさらすことで冷めますが、相変わらずほうれんそうからは栄養素が溶け出ていきます。みなさんは熱湯で栄養と味を捨てただけでは飽き足らず、さらに水で洗って栄養と味を落としているわけです。
ギュッと絞って水気を切り
なぜみなさん平然な顔をしてできるのかわからないほど農家としては本当にショッキングで目も当てられないことなのですが、熱湯に通して水にさらして栄養を出しただけでは飽き足らず、なんとこれでもかとギュッと絞りに絞ってさらに味と栄養を搾り取っているわけですね。
醤油とおかかをかける
そして絞りに絞ってほとんど味も香りもなくなってしまったほうれんそうに、味がないからとおかかやしょうゆをかけて食べているわけですね。
いかがですかみなさん、これを本末転倒といって何を本末転倒というんでしょうか。おいしいほうれんそうに出会ったらぜひおひたし以外の料理を作ってもらいたいと思います。
(普通にスーパーなどで売られているほうれんそうはアクが強いため、アクを取り除くために熱湯にさらすのはいたしかたない部分もあります。「普通のほうれんそうは」ね)
では、いいほうれんそうに出会ったらどう調理したらいいのでしょうか?ここでおすすめしたいのが60度で1分湯がく調理法です。
60度のお湯とは「指で触れるんだけど1秒は触っていられない」状態です。少し前に流行った50度洗いがよく似ていると思います。
1分ゆがいてお湯から取り上げたら水を切るのですが、絞る代わりにサラダスピナーを使いましょう。くるくる回せばあっというまに水分を飛ばすことができます。
この調理法ですと、シャキッとしているのに火が通っているという状態にすることができます。キレドのほうれんそうはそのまま生食もできるのですが、こうすると青臭さが軽減されて甘みが強く引き立ちます。おいしいほうれんそうを手にされたらおひたしにせずにぜひ試してみてほしいです!
千葉県四街道市育ち
九州芸術工科大学大学院芸術工学専攻修士課程修了
学生時代の6年間を福岡市、ソフトウェアエンジニア時代の6年間を金沢市で過ごす。
金沢市在住中に親友の紹介で室矢シェフ(現イルガッビアーノ)、澤田シェフ(現オーミリュードゥラヴィ) と出会う。知らない野菜を数多く使った料理を食べ野菜の奥深さを知る。
その後、シェフに直接野菜を卸している白山市の農家中野禧代美さんの畑で梨のような大根を 食べてから人生が変わる。以降、おいしい野菜を求めて会社勤めをしながら家庭菜園をスタート。
約2年間、中野禧代美さんに師事。
農業を本業としたい気持ちが抑えられなくなり12年ぶりに故郷千葉へ戻ることを決意。
千葉県八街市のシェフズガーデン エコファームアサノにて浅野悦男さんに師事。
2011年、エコファームアサノ内で野菜と畑の個人宅配「キレド」を開業
2012年の終わりに地元である千葉県四街道市に移転し独立。現在、約150種類の野菜・ハーブを栽培している。
2013年7月、野菜のファストフードの移動販売「キレドファストベジタブル」を開業。
2015年4月、工房兼店舗「キレドベジタブルアトリエ」を千葉市若葉区小倉台に開業。
http://www.kiredo.com