こんにちは。
みなさんは、お菓子などに使われる日本の伝統食材「寒天」がどのように作られているのかご存知ですか?
私は和菓子が大好きなので、豆と寒天だけの豆かん、あんみつに入っている名脇役の寒天。結構な頻度で食べているのですが、寒天がどんな風に作られているのか…なんて、考えたこともなかったです。
寒天の材料は海藻の「天草」。
これを知っている方も多くないのでは。
でも、寒天を作っているのは長野や岐阜など、海のない地域と言うから不思議です。
しかも寒天作りは、冬の寒い時季にしか見られないとのこと。
早速、寒天作りが盛んに行われている長野県の南部に位置する伊那市へ行ってきました。
今回取材でお世話になったのは、大正 5 年創業の天然糸寒天を作る老舗・小笠原商店さんです。
朝 7 時、気温0度(普段はマイナス10℃に近い寒さなどだとか。訪れた日は「今日は暖かい」と言われました…)。
山々に囲まれた田んぼの真ん中に到着すると、どこからともなく磯の香りが漂います。
工場の中ではすでに作業をされている方々が。
「皆さん、朝は何時から働いていらっしゃるのですか?」
「日の出とともに干したいので、日の出前からですね」
ひゃー!と言うことは、すでに干してある寒天は、今日!日の出とともに干されたもの。
寒い中ご苦労さまでございますっ!
この地域では、昔は冬季の農家の副業として寒天作りが盛んに行われていたそう。昔は数百件もの農家が寒天を作っていたそうですが、今では減っているそうです。
そんな中、小笠原商店さんでは、昔ながらの材料・製法で糸寒天を作っていて、じっくり時間をかけて作った糸寒天の品質は、羊羹で有名な老舗和菓子店も認めるほどだそうです。
「老舗和菓子店さんの羊羹は、口に入れたときの歯ごたえを大切にされています。良くない寒天ですと、しっかりした硬さはでるけど、もっちりとした食感は出せないんですよ。寒天は影の役割だけど、ちゃんとしたものでないと羊羹の味わいが変わってくるんです」と、小笠原さん。
羊羹の原料は、あずきと砂糖と寒天。
シンプルだからこそ、上質な素材じゃないといけないんですね。
老舗和菓子店では、店のために上質の素材を届けてくれる職人さんをとても大事にしているそうで、毎年こちらに来て、寒天作りの研修も行っているそうです。
「私たちも、その想いにこたえようと、真摯に寒天作りに向き合っています」
お互いを尊重するこの絆にも、職人さんたちの丁寧な思いを感じました。
早速、寒天ができるまでを見学させていただきました。
こちらが、原料の天草。
全国各地、海外より選りすぐりの天草を取り寄せているそうです。
天草は産地によって、色や太さ、硬さなど質がバラバラ。これらを職人さんが絶妙にブレンドして、寒天の質を守っているんだそうです。
天草を洗浄後、大きな蒸気窯で煮て、ろ過した液から寒天の素ができます。この液を固めたものを「生寒天」と呼ぶのだそう。
ちなみにこの生寒天の濃度を薄めてキュッと突いて押し出して細くしたものが、ところてんになります。
重さ150kg もする生寒天が機械に入ると、突き出されて細いところてん状になって出てきます。
昔はこれらをすべて手作業で行う重労働だったそうです。だからこの機械が故障した時は、大変!昔ながらのところてん突き器を使って、長時間かけて行うのだとか。
実は見学前に、ところてん突きを体験させていただいたのですが、寒天は押し返してくる程の弾力があってびっくり。通常の寒天よりも軟らかめにしてあるものでしたが、上腕二頭筋と三頭筋が痛くなるくらい(笑)全身の力が必要でした。
突き出されたところてん状の寒天を、よしずの上に広げて平らにするお手伝いをさせていただきました!
重なっている部分があると、次の「凍らす」「溶かす」「干す」の工程でムラが出てしまうのだそう。
寒天は半透明でキラキラと綺麗で、触るとぷるんぷるん!赤ちゃんのほっぺたみたいな弾力です。
このよしずを、日の出に合わせて屋外の干場に運び、冷たい外気にさらして凍らせます(気象条件によっては冷凍庫を使用したり水をかけたりして、凍結・解凍にムラがないようにするそうです)。
よしず 1 枚で約 40kg。ところてんの重みでずっしり。
持ってみると簡単には持ち上がらないんです。腕にも腰にもきます。これを寒い中、毎朝並べているなんて!
ここに日中は日光が当たり寒天から解け出た水分がポタポタと下に落ちていきます。そして、夜にまた凍結、日中は解けて水分が落ちる…これを繰り返すこと約 2 週間。 透明な糸寒天が完成するそうです。
こうした寒天作りは、10 月頃から 3 月まで続くと言います。
「師匠である母には、“寒天の顔をよく見なさい”って言われます」と小笠原さん。
昔から受け継がれた“作り方”はあるけれど、寒天は自然が作ってくれるもの。
気候条件はその日、年ごとに違うので、寒天の表情をじっくり観察して、作業の段取りを調整するのだそうです。
「見て、手間暇かけて、今日の天気、先の天気もみて作業するんですよ」
干し場に常に職人さん達の姿があったのも、寒天の一本一本をしっかりと見ていたからなんですね。
ところで、冷たい風の中、いよいよ体が冷え、手もかじかんできました。そんな私の様子を察してか、
「寒いでしょう。でもこの冷たい風が寒天作りには必要なんですよ」と小笠原さん。
南アルプスと中央アルプスに囲まれた伊那市は晴天の日が多く、乾燥した冷たい風が吹いて、寒天作りには最適なんだそうです。
寒い地域なら、北海道や新潟など海に近いところはたくさんありますが、曇りや雪の日が多く、湿度が高い地域は寒天作りには適さないそうです。
わざわざ海のものを、この地まで運ぶ理由がわかりました。
そして、この土地は、寒天には欠かせない上質な水・南アルプスの伏流水にも恵まれているそうです。
「人間にとっては寒いし辛い環境ですが、寒天にとってはありがたい。自然が持つ力をうまく利用して、じっくり時間をかけることで上質な寒天が作れます。ある料理人の方が“時も調味料のうちの一つ”と言っていたのですが、まさにその通りなんです」
じっくり手間暇かけて完成した糸寒天。
この一束が約10kg。寒天を並べたよしず約13枚分です。
生寒天の腕にズシッとくる重さとはぜんぜん違う、束になった紙を持っているような感覚。
水分が抜けきると、まったく違う姿形になるんですね。
見学を終えて戻ってくると、なんと、小笠原さんのお母様・辰子さんが、寒天料理を用意してくれていました!
綺麗な氷のように透き通ってキラキラ輝く糸寒天。いただいてみると、ぷるん!つるん!
寒天自体には主張する味がないのですが、食感がおいしいんです。
さらに、煮びたしのお出汁やドレッシングなどを程よく吸った糸寒天も美味!
この食感と保水力は、時間と手間暇をかけた寒天ならではのものだそうです。
サラダや炒め物など、洋食にも寒天が使われています。
寒天イコール和のイメージを覆す食べ方…こんなにオシャレな使い方もできるんですね~!鮮やかなお料理に感動です!
糸寒天は水で戻すだけで簡単に料理に使えて、お味噌汁やスープには直接入れて楽しめるそう。この日いただいたお吸い物は、糸寒天と鰹節、とろろ昆布に醤油少々とお湯を注ぐだけで作れたものでした。また、糸寒天とごはんを一緒に炊くと、炊きあがりがしっとりツヤツヤするそうです。
しかも食物繊維が豊富で体にもいい、ときたら、これからはいっぱい料理に使っていこうと思います。みなさんも、ぜひお試しくださいね。
「ごちそうさまでした!」
冷えた体にお母さんの優しさ、職人さん達の思い、全てが染み渡りました!
天草を海でとる人、干して乾かして袋詰めしてくれる人、山を通って運んできてくれる人がいる。
そして、凍らす溶かす乾かす、凍らす溶かす乾かす…自然のお陰で、このサイクルが成り立って寒天ができる…。
大切にしているのは“人への感謝”そして“自然への感謝”。
「これからも変わらずにやっていきたいです」と小笠原さん。
時代に流されず、伝統を守り続ける寒天作りの職人さんたちの姿に、「恵みのくに」が重なりました。
取材でお世話になった小笠原商店のみなさん、本当にありがとうございました!
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【小笠原商店】
長野県伊那市東春近田原6301-1
http://www.e-kanten.jp/
撮影:小澤晶子
衣装協力:AIGLE / 帽子:カブロカムリエ
静岡県静岡市出身。
タレント、ラジオパーソナリティ。
16歳でモデルデビュー。2010年 NHK 「やさいの時間」の出演をきっかけに、野菜作りや農業への興味が深まり、農業の活性化や農家と消費者を繋ぐ「農縁プロジェクト」を立ち上げる。現在、NHK「趣味の園芸 やさいの時間」TFM&JFN「あぐりずむ」「あぐりずむ WEEKEND」などのパーソナリティとしても活躍。自身のプランター栽培での"つまずき"を元にした書籍「川瀬良子のプランター野菜」発売中。