Vol.6 おむすびの話
~3種の俵むすび×塩麹唐揚げ×彩り玉子焼き〜

どこででも手軽に食べられて満足感もたっぷり。
誰もが思わず笑顔になる手づくりのおむすびは、
瑞穂の国に生まれたわたしたちのソウルフードかもしれません。

シンプルな塩むすびのおいしさも格別ですが、
“うまみの魔法”を少々プラスして旬の野菜でつくった“おとも”を添えれば、
おもてなしにも使えるちょっとしたご馳走に早変わり。

農家の方が丹精込めてつくったお米を
できるだけおいしくていねいにひとつに結んであげたい。
そんな思いから生まれた料理家・佐藤裕加さんの、
しみじみとおいしいおむすびをご紹介します。

お弁当には愛が詰められている

料理家・佐藤裕加さんは「お弁当」に格別の思いがあります。
なぜか駆け出しの頃は「お弁当」の連載ばかりが続き、
関わった2冊目の書籍タイトルも『母弁』。
これは佐藤さんがいちばん大変だった頃の仕事だけに
自分でもよくやりきったなと、感慨深いものがあるそうです。
父親の介護や入退院に奔走しつつ、自らの体調も悪化。
追い詰められたような状況だったのに、
お弁当のレシピつくりにひたすら取り組んでいたら
パニック症候群がピタリと治まっていたそうです。

誰かのことを思いながら、ひとつずつおかずを揃えていく。
開けたときに喜んでほしいから、工夫しながら詰めていく。
「お弁当は愛情を詰めているんだなとわかりました」
それからは、食事がまともにとれない忙しいときほど
「さあ、きょうも頑張ろう」と自分を励ますために
「自分へのお弁当」を早起きしてつくるそうです。

お弁当を無理なくつくるコツは
残り物ならぬ“ありもの”を上手に使い回すこと。
常備菜や糠漬けのような保存食も活用しつつ
“ありもの弁当”にすると決めてしまえばいいそうです。
最近は“インスタ映え”を気にして、毎日違うおかずをと頑張る人も多いですが、
そうなるとやはり息切れしてしまいがち。
がんばり過ぎて冷蔵庫に食材があふれて無駄にしたり
逆に無駄をなくそうと冷凍食品頼りになるのも寂しい。
たとえありきたりの食材やおかずでもアイデア次第で
見栄え良くおいしいお弁当ができると考えています。

そこで今回は、俵むすび3種と玉子焼き、鶏の唐揚げと
みんなが大好きな定番のお弁当をつくります。
俵型のおむすびはお弁当箱や重箱にもきっちり収まるし、
冷蔵庫の片隅にあるものを使ってアレンジすれば
いつもとは違うご馳走感が漂うはず。
またおかずもうまみマジックで冷めてもおいしい工夫が。
なにより玉子焼きと鶏の唐揚げは佐藤さんの大好物。
いまお気に入りのレシピを教えてもらいました。

俵むすび3種のつくりかた

おむすび用ごはんはいつものように塩少々を加えて炊きます。
塩加減はお米3合に塩小さじ1杯と1/2が目安。
炊き上がったら、それを3等分しておいてください。

実山椒と大葉むすび

風味の良い実山椒は、佐藤さんのお気に入り。
糠漬けには欠かせないので、店頭に出回る6月にまとめ買いをして、
いつでもつかえるようさっと塩ゆでして冷凍保存しています。
ちょっと味にパンチが欲しいなと思うときにもパラリ。
とても便利な保存食として活用していますが、
なかでもおすすめなのが、香味醤油で炊いた実山椒。
つくりかたは簡単なので、6月になったらぜひお試しを。

香味醤油はパクチーの根、半分に切ったニンニク、
2ミリほどの厚さに切ったしょうが
タネを取った青唐辛子を醤油でひたひたにしたもの。
今回の山椒は、茹でて冷凍した山椒を、かつお出汁と本みりん、
酒、香味醤油で煮たものです(保存期間半年)。
またこの香味醤油は、料理の隠し味やタレとしても抜群に使えるので、
こちらも多めにつくって常備しておきましょう。
特にゆでた枝豆を鞘ごとひと晩ほど漬けると、おつまみにも最適。
いままで捨てていたパクチーの根が、こんなに使えるとは!
驚いてしまうほど、風味豊かでクセになる香味醤油です。

実山椒の香味醤油漬けと大葉はみじん切りにして
ペーパータオルではさむようにして水分をふきとります。
市販の醤油漬けか塩漬けの実山椒でも十分ですが、
必ず味見をして、その塩加減で量を増減してください。
それをご飯に入れて、ご飯粒をつぶさないようにさっくり混ぜます。
お茶碗などに取り分けて均等に分けたら、
濡れ布巾でふいたまな板の上にいったん置き、
手のひらでころがすようにして俵型に整えましょう。

柴漬けとケッパーむすび

柴漬けとケッパーをみじん切りにします。
その水気をペーパータオルでよく拭き取り、ご飯に入れてさっくり混ぜましょう。
あとのつくりかたは同様です。

とろろ昆布と大葉むすび

俵型にむすんだものに、食べやすい大きさに切った大葉を乗せ、
とろろ昆布でくるりと巻きます。おむすび全体をとろろ昆布で包んでもOK。
とろろ昆布のうまみと粘りが、おむすびをよりおいしくしてくれます。

おむすびのおとも1
うまみもプラスした「彩り玉子焼き」

冷蔵庫にあるありふれた食材といえば卵。
明るい黄色でふんわりおいしそうな玉子焼きは、
お弁当には欠かせない存在ですよね。
具材を変えればバリエーションも無限なので、
定番の青ネギや三つ葉はもちろん、梅干の赤紫蘇やブラックオリーブなど
冷蔵庫にあるものでぜひ色々と試してください。
なるべく細かくみじん切りにして、
全体に混ぜ込んでしまえば巻くのも簡単です。

きょうは彩りとうまみを重視して、人参、戻した干し椎茸、三つ葉の3色。
味付けは白醤油と干し椎茸の戻し汁少々を加え、
あっさりと上品な味わいに仕上げています。
これに玉ねぎと鶏ひき肉を加えて、コクのある「千種焼き」にしても喜ばれますよ。

おむすびのおとも2
塩麹&生姜で食べ飽きない「鶏の唐揚げ」

佐藤さんの家族は全員が鶏肉好きで、
知り合いの居酒屋さんには「佐藤さん家の鶏肉」というメニューがあったほど。
お弁当にも必ず鶏肉料理が入っていたそうです。
ちなみにこの「佐藤さん家の鶏肉」は、
塩コショウした鶏もも肉を醤油、みりん、おろしニンニクのタレに漬け、
それをフライパンでたれごと蒸し焼きにして、
たっぷりのせん切りキャベツに、熱々をじゅっとかけたもの。
こちらもなかなかおいしそうです。

きょうの唐揚げは竜田揚げ風。
塩麹に生姜のすりおろし少々を入れ、
ひとくち大に切った鶏もも肉をひと晩漬けます。
そして、ペーパータオルで拭いて片栗粉をまぶし、
180度の油でこんがり揚げました。

塩麹のおかげで鶏肉が柔らかくなり、麹本来のまろやかなうまみに生姜の風味が加わって、
いくらでも食べられるおいしさです。
市販の唐揚げ粉を使うよりも軽い食感で、鶏肉のうまみが存分に味わえるのがいいですね。

写真・津留崎徹花  文・岡崎弥生

佐藤裕加さん プロフィール

東京都渋谷区出身、鎌倉市在住の料理家・フードコーディネーター。 身体に良い調味料、自家製の保存食を活かしたヘルシー料理を提案。 幼い頃、当時まだ珍しいプロの女性料理人だった祖母の料理に感動したのが食の原点。現在は自立した女性4人で海辺のシェアハウスに住み、昔ながらの食を大切にした暮らしを実践中。