豆腐の原料は、大豆・水・にがり。
シンプルだからこそ、繊細な手作業が仕上がりを大きく左右し、作る人の「人となり」や「考え」、その日の「気分」までも、鏡のように映し出すのだと、職人さんは言います。
だから豆腐の魅力は“十人豆色”(じゅうにんといろ)。
作り手の想いあふれる豆腐との出会いを求め、各地の豆腐屋さんを往き来し、見て、聞いて、味わって、感じ取ってきた豆腐の魅力を綴ります。
2月3日は「節分」、2月4日は「立春」。春を迎える節目となるこの二日間に食べる豆腐を「立春大吉豆腐」を呼びます。白いお豆腐は罪や穢れを祓い、清められた身体に新たな福を呼び込むとされています。そんな縁起の良い二日間の幕開けに、“おとうふ好きによる おとうふのアワード”、「TOFU Lover’s Selection (とうふ ラバーズ セレクション)」が開催されました。全国から集まった個性豊かな豆腐を来場者が試食審査し、消費者目線でさまざまな賞を選考する会です。 私も実行委員のひとりとして関わらせていただいたので、今回は企画から開催までの準備期間を振り返りつつ綴りたいと思います。
昨夏のことでした。「私、やっぱり TOFU Lover’s Selection がやりたいんだよね!本当にやりたいから企画書を作ろうと思うよ!」そんな思いの丈をぶつけてくれたのは、実行委員長 中村直美さんです。中村さんは、「豆腐マイスター」の仲間として、これまで私が開催するイベントに企画から運営、広報まで、全面的に尽力してくださっていた「恩人」とも言える方です。豆腐に対しては言わずもがな、豆腐屋さんに対して、尊敬と愛情を持って応援してきた中村さん。私たちが一緒にいると、豆腐の話題が挙がらない日はありません。
実は、「TOFU Lover’s Selection」は、すでに過去2回開催されてきたイベントです。もともとは、一般社団法人日本豆腐マイスター協会が開催した豆腐好きのための交流会の中で、全国から豆腐を集め ”豆腐マイスターがもう一度食べたい豆腐” を選ぶ、という企画から生まれた小さな品評会でした。消費者と作り手が交流をしながら豆腐について語り合い、応援したいと思う豆腐屋さんへ一票を投じることでエールを送る。その運営に関わっていたのが、著者の工藤であり、中村さんをはじめとする有志の豆腐マイスターの皆さんでした。中村さんは5年もの間、「あの“TOFU Lover’s Selection”を復活させ、新たな形で開催したい!」という想いをじっくりとあたためていてくれたのです。
さっそく一般社団法人日本豆腐マイスター協会へ企画書を提出し、全面サポートをいただける形となり、5年前にも活躍してくれた豆腐マイスターの吉岡幸太郎さんと共に実行委員会を組織することになりました。こうして集まった3名の有志で、「TOFU LOVER’S Selection 2019」の開催に向け、月に2〜3度の企画会議が行われていきました。
「やっぱり、開催日は“立春大吉豆腐”に合わせたいな」
2月3日の開催を提案したのは実行委員長となった中村さんでした。
豆腐を作る人にとっても、食べる人にとっても、縁起の良い日になるように、そんな想いが込められていたのでしょう。
私たちのお豆腐に対する共通の考え方は、「豆腐の“おいしい”を測る“ものさし”はひとつじゃない」ということでした。体調や季節によって、食べ方や味付けを変えられるのが豆腐の魅力。どれも同じに見えるという人ももちろんいるけれど、実は人によって好みがハッキリ違うことがわかるだけでも楽しい豆腐。「受賞豆腐」を決めるだけではなく、「おいしい豆腐」とは何か?という問いに対して、様々な角度から考える機会だったのです。豆腐のおいしさは「甘い!」「濃い!」という一口食べたインパクトだけでは語りつくせません。作り手である職人さんへ届けたいのは「この豆腐は毎日食べても飽きが来なそう!」だったり、「この価格で買えるならばコストパフォーマンス最高!」という声だったり、「パッケージがこれならつい買っちゃいそう!」といったような、消費者のリアルな声。
そこで、前例通りの豆腐マイスター取得者が決める「豆腐マイスター賞」に加え、新たな賞を設けることにしました。例えば、一丁ペロリと食べられてしまうような飽きない豆腐に対する「毎日食べたいで賞」や、こんな豆腐あったの?とビックリするような企画性に対する「オリジナリティ賞」、これだったらジャケ買いしちゃいそう!というようなデザイン性に対する「パッケージ賞」など。さらには、当日試食審査へ参加した豆腐職人さんへも投票権を持っていただき、これは嫉妬してしまう…という豆腐を選んでもらう「豆腐屋が選ぶ豆腐賞」まで用意。
自分たちにとっても結果が楽しみになるようなアワードが生まれれば、出品する豆腐屋さんにとって、これまで商品化に繋げられていなかった新しいアイデアも発表できる場になっていくはず。そんな期待を抱きながら、「きぬ」や「もめん」などの「部門」は敢えて設けず、“変わり種”と言われるような加工豆腐や豆腐スイーツなど、ジャンルに縛られないあらゆる豆腐が出品できるよう、極力緩やかな出品基準を設け、全国へエントリーを呼びかけました。
2月3日当日。都内の会場へ全国各地から集まった豆腐たちは約80種。正統派の「きぬ」や「もめん」はもちろんのこと、「ココナッツ豆腐」 や「紫蘇豆腐」、「シフォンケーキ」や「スイーツがんも」なるものまで。ネーミングからは想像が出来なかった商品ともついにご対面です。バラエティに富んだ豆腐は、「販売価格」や作り手からの「PRポイント」と共に並べられました。そして豆腐屋さんのトレードマークであるラッパの「トーフー」という音色と共に「TOFU Lover’s Selection 2019」が開幕しました。
試食審査会場には、この会のために遠征してきた豆腐好きの皆さんや、自分の豆腐を食べた人の感想を生で聴きたい、と駆けつけてくれた出品者の職人さんなど、まさにTOFU Loversな消費者と作り手が集結しました。
その一方で、豆腐の仕分け・開封作業を行う現場スタッフ間には、全く気が抜けないような空気が張り詰めていました。我が子のように作り手から送り出された豆腐を預かっているから尚更です。本当にお疲れさまでした。
さて、気になる試食審査会での投票結果は以下の通りとなりました。
まず「豆腐マイスター賞」 は、茶碗蒸しのような滑らかさで、とろとろ食感が独特の北海道 湧水の里 真狩豆腐工房の「うきふ」 です。そして、「豆腐屋さんが選ぶ豆腐賞」は「香り豆」という大豆の特徴を最大限に引き出した宮城県 兎豆屋(とまめや)の「香おぼろ」が選出。さらに、「毎日食べたいで賞 」は安心感を覚えるような甘みと料理への活用も期待できる東京都 三善豆腐工房(みつよしとうふこうぼう)の「きぬ豆腐」と、茶豆独自の香味を凝縮しつつも食べやすさが支持された宮城県 伊東豆腐店の「茶豆おぼろ」。「オリジナリティ賞」 ・「パッケージ賞」のダブル受賞は、黄大豆と黒大豆を用いてパンダ模様に見立てる斬新さで話題を呼んだ東京都とうふ工房ゆうの「ぱんだもめん」が選ばれました。受賞者の皆さん、この度はおめでとうございます!
しかしながら、今回もうひとつ強調しておきたいことは、これらの受賞者が“圧勝”したわけではなく、すべての賞に関して見事に票が分かれていたということです。賞の受賞とはならなかった豆腐にも、「これが一番美味しかった!」と票を投じた参加者の方がいたということは大切な事実です。
やっぱり豆腐は“十人豆色”(じゅうにんといろ)。そして、豆腐の好みも“十人豆色”。
これだけ様々な豆腐へ票が分かれたということは、皆さんそれぞれの「マイベスト豆腐」があることが証明されたように思います。集めた投票用紙には、細かな字でびっしりと豆腐に対するコメントを記入してくださっていた方も多く、作り手想いの豆腐好きが集まってくださっていたのだな、と改めて思いました。これらのフィードバックは直筆のまま出品者の皆さまへ届けられました。
中村さんが構想し続けた「豆腐のおいしさ」を様々な角度から考えるきっかけづくり。その企画意図はきっと来場者へ熱く伝わったのではないかと思います。
出品や参加という形でこの会に関わった豆腐職人さんからも、嬉しい反響が届きました。「自分にも確実にコアなファンはいる!これからも自分らしい豆腐をつくっていこう!」という豆腐づくりに対する真っ直ぐな決心や、「悔しい結果だったけど、これからもお客さんに喜んでもらえるように挑戦していきたい!」というハングリー精神。
賞をとった豆腐も、そうでない豆腐も、職人さんにとっては「通過点」の作品であり、「ゴール」ではないことが伝わってきました。消費者とのコミュニケーションが、日進月歩を続ける職人魂に響くものとなっていれば何よりですね。
こういった発信活動をしていると、「あなたは全国のお豆腐やお豆腐やさんを知り尽くしているんでしょう?」なんて期待されてしまうこともあるのですが、むしろ、自覚としては真逆です。「TOFU Lover’s Selection」の企画運営を通じて改めて私が悟ったこと。それは、“豆腐のことを知り尽くした!”と思える日など、生涯訪れないのだ……ということです(笑)
豆腐を好きになればなるほど、豆腐の底知れぬ奥深さに魅了されていく。順位付けよりも大切なことを気がつかせてくれたのは、この企画の実現の道すじを先導し、照らし続けてくれたリーダーの中村さんの情熱と明るさです。
直美さん。「またやりましょう」とは軽々しくは言えませんが、これからも一緒に豆腐への愛を大声で、そして笑顔で、届けていきましょうね!
立春大吉豆腐を満喫したTOFU Loversの皆さまに幸福が訪れますように。
旅は続きます。
photo by さくらい しょうこ
幼少から豆中心の食生活を送り、豆腐はその中心にあり、無類の豆腐好き。外国人に日本語を教える講師を目指して勉強している過程で食文化も一緒に伝えたい と「豆腐マイスター」を取得。国内だけにとどまらず海外でも、手作り豆腐ワークショップや食育イベントを実施して経験を積む。2018年より「往来(おうらい)」をテーマに本格的に活動を開始。豆腐関連のイベント企画・メディア出演などを通して、各地で豆腐文化の啓蒙活動を行っている。
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