培地から一貫生産する、なめこ生産者

最後に訪れたのは、なめこの生産工場。ほかのきのこと異なり、長野県中野市でなめこを生産しているのはわずか10軒で、いずれも大型施設ではなく、個人や家族で生産をしています。そのひとりが、阿部光寿さんです。

家族でなめこを生産している阿部光寿さん。

阿部さんは培養センターを使わず、培養から収穫まですべてを一貫生産しています。

「自分で配合したおがくずやとうもろこしの芯の粉末などをビンに詰め、蒸気で熱して殺菌し、種菌をつけて培養しています。ほかのきのこはそこまでを培養センターが担当しますが、うちは自分の手で行うので、殺菌には一番気を使いますね。ただ、培養センターで仕入れるとビンの中身は一定ですが、配合を自分で考えて作りたいものを作れるのは、一貫生産の強みです」(阿部さん)

なめこの規格は重さではなく、S・M・Lという粒のサイズで決まります。S(傘の直径が1.0〜1.6cm)の小粒がもっとも高値で販売されるため、糖質(とうもろこしの粉)やタンパク源(乾燥オカラ)の配合を独自に調整しながら小粒サイズをめざせるのです。

「小粒が揃うために必要なのは糖質です。でも、糖質が多すぎると芽が出すぎてしまい、Sサイズにも満たないなめこになってしまう。そこで、大粒でしっかりしたものになるタンパク源とのバランスを考えて培養しています」(阿部さん)

培養期間は60日。最初は16℃から培養を始めて徐々に室温を高め、30日以降は20℃をキープします。というのも、ビン内は常に20℃ほどを保たなければならないのですが、最初の3週間ほどは菌がおがくずや栄養分を食べて放熱し続け、その熱で菌が死滅する恐れがあるため。そこで最初は室温を低くし、菌の働きが落ち着いた頃から20℃を保つのです。

培養後は芽出し室に移動。その際、ビンの表面には老化した白い種菌が付着しているため、一度水で洗い流します。すると、4日目には再び表面に菌が戻ってきます。

洗浄後、4日経って表面に菌が戻ってきた培養ビン。

つまり、洗浄して表面を傷つけることでビン内に眠っていた菌に刺激を与え、さらに、芽出し室では日中、常に照射して菌を呼び起こします。
このときの室温は、菌がもっとも活発に活動する15℃。

「季節によっての温度管理も大変です。菌は呼吸をしているため、二酸化炭素がたまらないよう1時間に15分換気をするのですが、外気で室温が上下しないよう気を付けています」(阿部さん)

さらに生長して10日目にもなると、密集して生えたなめこの間に熱がたまります。そこで蒸れないよう、最終的には12℃まで室温を下げ、大きくなったものからひとつずつ収穫。15日目にはすべての収穫を終えます。

大きくなった粒だけが収穫され、再び成育室に戻されたなめこ。

そして、すべて収穫したビンの表面をきれいに切り取って再び水を与えると、ビン内に残った栄養分と水分により、10日後には1回目ほどの量ではないものの、再度なめこが生えてきます。つまり、1ビンで2回収穫ができるのです。

「2回目の生育は菌も弱っているので、どうしてもカビ菌に負けてしまうときがあります。そこで水をかけすぎず、換気はたくさんします。2回目のほうが管理は大変です」(阿部さん)

こうして収穫したなめこは共選所に持ち込み、洗浄、選別され、真空パックになって出荷されます。ほかのきのこに比べて水気とぬめりがあるなめこは、真空パックにすることで日持ちがよくなるのです。

「このぬめりで、なめこは外菌から身を守っているんですよ」(阿部さん)

そんななめこのおすすめの食べ方は「ベタですけど味噌汁が一番喜ばれますね」と阿部さん。

「きのこ全般に言えることですが、なめこも当然、よい出汁が出ます。先日、とある祭りでなめこの味噌汁を振る舞いましたが、大量のなめこを入れて作ったら、皆さんから『普通の味噌汁なの?』と驚かれました。そこで、ご家庭で食べる場合も、出汁用にきのこを入れて味噌汁を作り、さらに食べる用のなめこを足すとおいしいですよ」(阿部さん)

地域を挙げてきのこを生産するということ

JA中野市としては、こうした生産者たちと販売戦略を共有しながら、販路の開拓を行っています。

「きのこ販売課としての一番の活動は、消費者に対する食べ方の提案です。スーパーで販売されていてもどう使っていいかわからないという消費者が多いので、試食宣伝会などを行いながら消費の拡大につなげています」(田中さん)

なめこのメニューのひとつ「なめこたっぷりとろとろマーボー豆腐」。

また、生産者からも「どのように販売されているかわからない」といった声があるため、バイヤーや生協の会員には産地や工場見学を促し、きのこをより身近に感じてもらうとともに、生産者には卸先の顔を見せることで、安心して出荷してもらえる体制を整えています。

さらに、季節に応じた計画生産に加え、たとえばなめこは夏場、生産者10軒のうち5軒が栽培をやめて農業に専念するため、単価が上昇する分、きのこ販売課が調整役となって消費と価格の安定を図っています。

うまみ素材「きのこ」で盛り上がる中野市。その背景には、生産者たちの努力とJA中野市との連携体制がありました。