umamiのおべんきょうprojectの連載は、
農家さんや料理家さんなど食の現場に関わる方々から
“おべんきょう”になるお話しをうかがいます。

この連載は、umamiのおべんきょうprojectが注目している、野菜若手農家のキレドさんが担当します。キレドさんは千葉で150種もの野菜を育てている野菜農家さんで、今回は自己紹介がてら、umamiのおべんきょうprojectを主催している“やまや”の『うまだし』を使った、簡単でおいしいレシピも紹介してくれました。
photo by Shuhei Yoshida

 

12月上旬から畑にも霜が降りるようになってきました。霜が降りるということは夜の気温が零下になるということ。でも千葉の天気予報を見ると最低気温が0℃というのはほとんどありませんよねぇ。実は天気予報の最低気温より畑の最低気温は4℃ほど低いんです。宅地よりも畑はかなり冷え込むんですね。

霜が降りることでおいしくなる野菜もあればダメになる野菜もあります。野菜によって寒さに強いもの、弱いものがあるためです。今回は寒くなることでおいしくなる野菜の代表格、にんじんのお話です。

にんじん畑

発芽までがとても難しい

千葉では寒くなる冬に旬を迎えるように、8月に種をまくのが一般的です。にんじんは種をまいてから90日で収穫できるサイズになるため、11月中旬に収穫できればちょうどいい、と逆算して8月に種をまくんです。ところが、にんじんをはじめとしたセリ科の植物は発芽に日光だけでなく水分も多く必要とするため、暑さで土が乾きやすい8月まきには細心の注意が必要です。

具体的には発芽するまで水をやり続けないといけません。野菜を厳しく育てることが信条のキレドでは年間で唯一といっていい水やりです。8月初旬は外出厳禁!種をまいてから約1週間、土が乾かないように気をつけないといけません。

夏場の水やり

発芽したにんじん

発芽してしまえばにんじんの栽培は半分成功といったところ。それくらいにんじんは発芽が難しい野菜です。家庭菜園をやっているときは水やりの重要性がわからなくてにんじんの種まきには何度も失敗しました。もし家庭菜園をやっている方でにんじんに失敗している方は発芽までの水やりに注意してみてくださいね。

寒くなるとおいしくなる

11月に収穫を開始したにんじんはしばらくは葉をつけた葉にんじんとして楽しむことができます。にんじんの葉はもそもそしているのでよくよく火を入れるかき揚げやふりかけ、チャーハンなどで使うのがおすすめです。葉の独特の香りを楽しむことができるので短い期間ですがぜひ楽しんでもらいたいです。

その後寒くなるに連れて葉が枯れてきます。にんじんも大根と同様に寒くなることで糖度が増しおいしくなってきます。ちょうど葉が枯れきったくらいが甘さが最高潮になるころ。1月、2月が一番にんじんがおいしい時期です。

にんじんの葉にこびりついた霜

葉が枯れきったにんじん

寒くなるとおいしくなるにんじんは冷蔵庫で保存してあげてください。よく根菜を冷蔵庫に入れずに常温保存している方がいますが農家の立場から言わせてもらうと、ぜひ今日からやめていただきたい。にんじんの理想的な温度は0℃から2℃、野菜室だと温度が高いので普通の冷蔵室に入れてあげてくださいね。

さまざまなにんじん

スーパーで見かけるにんじんはオレンジのものがほとんどですが、にんじんにはいろいろな色があります。黄、赤、紫、白、クリーム色・・・。ほかにもあるかもしれませんね。スーパーのものはずんぐりとしていますが細長いものもあります。

アフガニスタンやカザフスタンなどの中央アジアが原産と言われているにんじんですが、中央アジアから欧米を経由して日本に渡ってきたものがずんぐりとした西洋にんじんで、中央アジアから中国を経由して日本に渡ってきたものが細長い東洋にんじんです。

色と形が違えば当然味も違います。どれもちゃんと育てれば甘みはのりますが、香りが全く違います。

オレンジのものはフルーティ、白や赤、紫色の東洋にんじんはどこかハーブやスパイスのような香りがし、黄色はその中間のような印象です。

いろいろなにんじん

紫色のにんじんは特に独特の香りと強い甘みが特徴で、輪切りにするととても美しい模様が出るのでサラダにとても向いています。

数あるなかでもキレドが育てていておもしろいのが黄色い「島にんじん」という品種です。生でかじると、「普通だな・・・」という味なのですが、火を通すととうもろこしやさつまいもが混ざったかのようにとてもとても甘くなります。はじめて食べたときの感動といったらそれはもう・・・。ぜひみなさんにもキレドの島にんじんを食べてみてもらいたいですね!

収穫した島にんじん

このように、にんじんにも生のほうがおいしいもの、火を入れたほうがおいしいものとがあります。大根のお話でも言いましたが、同じ種類でもそのキャラクターを捉えて料理してあげることがとても大切です。

おいしいにんじんに出会うためには

にんじんは農家によって味の違いが出やすい野菜です。どんな肥料をつかっているのか、どんな土なのかで同じ品種を育てていても全く違う味になります。普段スーパーでお買物をしているだけではなかなかおいしいにんじんに出会うのは難しいかもしれません。

農家によって味が大きく違うということはおいしいにんじんに出会うためにはなるべく多くの農家のにんじんを食べ比べないといけないということですね。なので、にんじんはできるだけ直売所で農家の名前が出ているものを買うようにしてほしいです。

ひとつアドバイスをするとすれば、おいしいにんじんはたいていへたがオレンジ色をしています。スーパーで見るとへたはほとんど緑色をしていますね。にんじんを買うときはへたがオレンジ色なのを選ぶようにしましょう!そしてそのにんじんを作る農家の名前を覚えるようにしましょうね。

おいしいにんじんだからこその食べ方

おいしいにんじんを手に入れたらぜひともやってみてほしい料理があります。おいしいにんじんはシンプルな料理でとてもおいしくなります。もっともおいしくて簡単な料理はオーブン焼きです。

島にんじんのオーブン焼き

・オーブンを250度に予熱する
・にんじんを洗う
・オーブンににんじんを入れて焦げ目がつくまで30分くらい焼く
・適当な大きさに切って食べる

嘘だと思われるかもしれませんが、おいしいにんじんはこれだけで本当においしいはずです。逆に言えばおいしいにんじんでないとできない調理法とも言えますね。

素材の差を味わえるもっとも簡単な調理法です。おいしいにんじんを手にされたらぜひとも試してみてくださいね!

ひとみにんじんとトレビス、うまだしのサラダ

・ひとみにんじんは斜めに輪切りにしてから太めの千切りにする
・ひとみにんじんとオリーブオイル、うまだし、砂糖、塩を和えて5分置く
・ちぎったトレビスとにんじんの葉を一緒に混ぜ盛り付ける