どこででも手軽に食べられて満足感もたっぷり。
誰もが思わず笑顔になる手づくりのおむすびは、
瑞穂の国に生まれたわたしたちのソウルフードかもしれません。

シンプルな塩むすびのおいしさも格別ですが、
“うまみの魔法”を少々プラスして旬の野菜でつくった“おとも”を添えれば、
おもてなしにも使えるちょっとしたご馳走に早変わり。

農家の方が丹精込めてつくったお米を
できるだけおいしくていねいにひとつに結んであげたい。
そんな思いから生まれた料理家・佐藤裕加さんの、
しみじみとおいしいおむすびをご紹介します。

香ばしい糠のうまみがクセになる

鎌倉在住の料理家・佐藤裕加さんは大のおむすび好きで
おむすび専門店のプロデュース経験もあるんだとか。
どうすればお客さまに喜ばれるのか。
まっとうな食材や調味料を使うのはもちろんのこと、
おむすびの中の具や付け合わせのひと品も
すべて手づくりだったため試行錯誤を繰り返しました。
そのときに役立ったのが昔ながらの食の知恵。
日本の食文化のなかで育まれてきた、さまざまな天然のうまみを生かしつつ、
誰にでもおいしくつくれるようにひと工夫。
それが、佐藤さんの丸くて大きめのふんわりおむすびです。

今回のおむすびは、カリカリ梅と赤紫蘇を具にして、
自家製の糠ふりかけをパラリとふりかけたもの。
梅×ごはんはとてもベーシックな組み合わせですが
カリカリ梅独特の食感に糠の香ばしさが加わって
なんだかクセになりそうなおいしさです。

この自家製糠ふりかけ、つくり方はとても簡単なので、
多めにつくって常備しておくと便利、と佐藤さん。
「玄米が苦手な方でもこれならおいしくいただけるはず。
きな粉のようにほんのり甘くて優しいうまみがあるので、
ごはんはもちろん、おひたしなどにも合いますよ」
このふりかけ、糠漬け教室を主宰する佐藤さんが
糠の新たな利用法として考えたもので生徒さんにも大好評。
精米のときに別れた糠が再びごはんと出合うのだから、
おむすびと相性抜群なのも当たり前ですね。

\「糠ふりかけ」のつくりかた /

まずは弱火で生糠を香ばしくなるまでじっくり炒めます。
最初はダマになっても次第にサラサラになるのでご心配なく。
生糠が手に入らなければ市販の煎り糠でも大丈夫ですが、
できれば信頼できるお米屋さんから、新鮮なものを分けてもらいましょう。

ぷーんといい匂いがして糠がサラサラになってきたら
いったん火を止めてかつお節と刻み海苔、すりごまを加えます。
再び弱火にして軽く炒めながらよく混ぜ合わせ、最後に塩を入れて味を調えます。

粗熱がとれたら蓋付きの容器に入れて冷蔵庫へ。
分量の目安は、生糠2カップに対して塩小さじ1。
かつお節や刻み海苔、すりごまはお好みで。
ほかにちりめんやパラパラにした明太子を加えてもOK。
塩だけは入れ過ぎないように注意してくださいね。

ごはん粒をふっくら優しくリズミカルに結ぶ

佐藤さんのおむすびはほろりと優しい口当たり。
お米が持つ甘味や風味を十分引き出すため、ごはん粒をつぶさないように優しく握ります。
「握るというよりも力を入れずにきゅっきゅっと結ぶ感じ。
スナップを利かせて手のひらをひねっていくと、ちゃんと自然に丸くなっていきますよ」
するとまわりはふんわりしながらもしっかり締まる。
“おにぎり”ではなくまさに“おむすび”です。

実はこれにはモデルがあります。
それが“食はいのち、暮らしの基本”を信条に
昨年94歳で亡くなるまで岩木山麓で助けを求める人を受け入れてきた
「森のイスキア」主宰・佐藤初女(はつめ)さんのおむすび。
初女さんがつくるのはいつも梅干と海苔だけなのに、
そのおいしさに多くの人が癒されたことはよく知られており
自殺を思いとどまった青年もいるのだとか。
佐藤さんも、初女さんに結ぶ技術を教わった方のものをいただいて
こんなにおいしいおむすびがあるのかと感動したそうです。

初女さんは第一関節につけた塩を手のひら全体によくすりこみ、
そのまま5個は握るそうですが、これがなかなか難しい。
塩もまたお米の甘さを引き立てる大切なうまみだから
おむすび全体にまんべんなくいきわたってほしい。
そこで佐藤さんが考えたのが塩を入れてごはんを炊くこと。
これなら誰でも安心して握れるし、手水を付けすぎてベタベタになることもありません。

いつもなにげなくつくっているおむすびを、もっとおいしく食べてもらえたら。
とても小さなことのようにも思えるけれど、
そんな思いから日々の暮らしが変わっていくはず。
ちょっと疲れているなと感じたときは、
誰のためでもなく自分のために、ぜひ心を込めておむすびをつくってみてください。

\ おむすびのつくり方 /

種をとったカリカリ梅と赤紫蘇は細かく刻み
ごはんは塩少々を入れて気持ち硬めに炊いておきます。
塩加減は米3合で塩小さじ1と1/2が目安。これでだいたい7個ほど握れるはず。
塩はなるべく自然のうまみを持つ海の塩を使ってください。

ごはんが炊き上がったら小鉢にふわりと入れて型取りし、
濡れ布巾で拭いたまな板の上にひとつずつ並べておくのがコツ。
これで大きさをそろえることができるし、
熱々のごはんが少し握りやすい温度になります。
カリカリ梅を中に包む場合はごはんの中央にくぼみをつけて
そのなかに埋めておきましょう。

水で濡らした手をパパッとふってから、そっとごはんを手に取って包みます。

手のひらの中でころがすようにして形を整えていきます。
手首のスナップをきかせてリズミカルに。
ごはんの1粒1粒が呼吸できるようにふんわりやさしく、がポイント。
ギュッと押しつぶさぬよう力の入れ加減に注意して。

できあがったおむすびに糠ふりかけをまぶし、
カリカリ梅と紫蘇を載せればできあがり。
手で食べやすいように海苔を巻くなら、おむすびの大きさに合わせて正方形に切り、
2枚をすきまなく貼ってからなじませるように握りましょう。
食べるまでに時間があるならラップではなく、
キッチンペーパーかさらしの布で包んでおけば
ふんわりしっとりのおいしさが長持ちします。

おむすびのおとも
だしと野菜のうまみが溶け合ったおひたし

今回のおむすびのおともは、彩り野菜のおひたし。
佐藤さんの鎌倉の家の近所には
地元農家が直接野菜を販売する「レンバイ」(鎌倉市農協連即売所)があり、
カラフルで新鮮な野菜がいろいろと手に入るとか。
珍しいものを見つけたらとりあえず、薄口醤油を少々加えただしに漬けておくそうです。
お醤油をかけるだけのおひたしよりも、
野菜とだしのうまみの相乗効果でおいしさが倍増。
冷蔵庫で冷やしておけば、常備菜としても使えるし
なによりひんやりした口当たりが、食欲がなくなるいまの時期にはぴったりです。

\「彩り野菜のおひたし」のつくり方 /

おひたしにする野菜はなんでも使えますが
きょうの野菜は、カラフルなプチトマトに水ナス、生キクラゲ、シロジク。
プチトマトは湯むきし、シロジクと生キクラゲはさっとゆでて冷まします。
水ナスは生のまま手でざっくり割りましょう。
漬けだしの塩加減はそばつゆ程度の感覚で。
味見しながら薄口醤油を加えてください。
漬け時間は30分から3時間ほどが目安。
〈うまだし〉なら手軽にだしが引けるのでぜひお試しを。