さまざまな食材がもつうまみの世界を探求しようと、ウェブメディア『colocal』との連動企画として始まった「うまみの体験教室」。7月20日(木)に行われた第3回目のゲストは、料理家・山脇りこさんです。
和食のおいしさを支える、うまみたっぷりのだし。旅館の娘として生まれ育った山脇さんにとって、子どもの頃からだしは身近な存在だったそう。「『自分の子どもに一番伝えたいものは?』と考えたら、おだしでした」と、長年「だしの教室」を開いてきました。
グルマン世界料理本大賞2014を受賞した『昆布レシピ95』などの著書があるほか、北海道では昆布の漁船に乗せてもらったこともあるという山脇さん。ワークショップは、山脇さんのだしへのこだわりが溢れる、「ちょっとマニアック」な昆布の話からスタート!
最初に話してくれたのは、昆布の「三大産地」のこと。どこなのか、ぱっと思い浮かびますか? 実は、北海道の「利尻」「真昆布(南茅部)」「羅臼」がその3つ。そのなかでも、さらにおいしい昆布がとれる浜は、地域によって「上浜」や「別格浜」などと呼んで区別されているとか。
江戸時代の昔から、おいしい昆布がとれる場所はずっと同じ。上質な昆布のパッケージには、天然であること、どの産地のどの浜でとれたのかまで細かく書かれています。
「いいワインのラベルには、村や畑の名前まで書いてあるでしょう。あれと同じです」
上浜と呼ばれる海にはミネラル分などが豊富で、昆布の味は産地によって決まります。ワインがぶどうの育つテロワール(=地質など土地の環境)を大事にするように、昆布もテロワールなんですね。「だから、天然にこだわりたい」とも。
「いきなりマニアックな話をしていますが、みなさんついてきていますか?(笑)」と山脇さん。身近なはずの昆布ですが、聞けば聞くほど知らないことばかり。参加者のみなさんも、メモをとりながら聞き入っていました。産地ごとの違い、天然のおいしさなどについて学んだあとは、さっそく三大産地の昆布を味比べ。
コップに注がれたのは、7時間、水に浸けておいただけの昆布だし(昆布水)。比べてみると、色の濃さにも差があります。違いがわからなかったらどうしよう、と少し不安だったのですが……飲んでみてびっくり。味や香りに産地ごとの個性がちゃんと出ていました。
「澄んでいて上品な利尻に比べて、羅臼は濃くてうまみも強いけど昆布の香りもしっかりある。真昆布はその中間的な味わいで、甘みがあってバランスがいいですよね」
利尻はその繊細さが好まれて京都の料亭で多く使われ、真昆布は大阪の料亭や割烹料理屋などで愛されています。そして羅臼昆布は九州で好まれ、醤油が入ったうどんやそばのつゆに…と使われ方もそれぞれなのだとか。産地ごとに得意とする問屋さんも違うそう。ふむふむ、明日から昆布を見る目が変わりそうです。
さらに、水に浸ける前の昆布を触ったり、かいだりしながら、違いを確かめます。こんなにじっくり昆布を観察するなんて、初めてのこと。「切り口が白いね」「このままでも、いい香り」「こんなに厚みがあるの!?」、各テーブルで、参加者同士の会話が弾んでいました。
昆布は60度を超えるとうまみ成分が出にくくなるため、家庭なら水に浸けておくのが手軽においしいだしをとる方法。浸けておいた昆布を触らせてもらうと、手でちぎれるほど柔らかくなっていました。
「海から引き揚げた昆布と同じくらい柔らかく戻すつもりで。しっかりいい仕事をしてもらいましょう」
水に浸けておく時間がないときには、ごく弱火で30~40分ほど加熱する方法も。目安は、ホットコーヒーくらいの温度(70度程度)。それより熱くならないように気をつけます。
この昆布水を加熱して、人参、玉ネギ、キャベツの芯などをいれるレシピも教わりました。簡単で、野菜もだしもおいしくいただけそう。
うまみのかけ合わせを知るため、このあとのデモンストレーションでは、山脇さんが昆布水にかつお節を加えた「一番だし」を目の前で引いてくれます。
「一番だし」に使ったのは、昆布水1リットルに、かつおの本枯れ節40グラム。
「多いなあと思うかもしれないけれど、まずはこの量で味わってみてください。お塩も何もいれなくてもおいしい。そのあとで料理に合わせて、好みで量を調節してください」
沸騰する前の昆布水にかつお節を沈めて、およそ1分で火を止めます。濡らして固く絞ったさらしを、ざるにのせて濾します。うーん、いい香り! しっかりとした黄金色です。ザルだけよりも、生地屋さんなどで売っているさらしを使ってほしいと山脇さん。
さっそく引いたばかりの一番だしをみんなで味見すると、「わあ!」と歓声があがりました。
うまみがたっぷりで、調味料を使わなくてもこんなにおいしいなんて驚き! そのままでも十分満足感がありますが、塩をほんの少し加えると、きゅっと味が引き締まります。気づけば、テーブルのあちこちから「おかわり」の声。
昆布のうまみ成分はグルタミン酸、そして、かつお節はイノシン酸。2種類以上のうまみ成分を組み合わせることで、うまみの感じ方は7~10倍になると言われています。なるほど、一番だしが好まれるのには、ちゃんと理由があったのですね。
「どの食材にどのうまみ成分が多いのかを知っておくと、急いで料理をつくるときにも役立ちますよ」
グルタミン酸が多い食材は、ほかにもトマトやパルミジャーノ・レッジャーノ、白菜やキャベツなど。イノシン酸が多いのは鶏や豚肉です。しいたけなどに含まれるグアニル酸とともに、「三大うまみ成分」と呼ばれます。
「たとえば、だしを引く時間がないときは、トマト(グルタミン酸=昆布と同じ)と鶏(イノシン酸=鰹節と同じ)でスープをつくってもいい。これは、一番だしと同じうまみ成分の組み合わせ。世界中で同じようにうまみ成分が組み合わせられてきたなんて、不思議ですよね」
さらに、一番だしと醤油、みりんでつくる夏にぴったりのめんつゆを、素麺とあわせていただきました。昆布は温度や湿気に注意すれば長期保存ができますが、かつお節は味が変わりやすいので、早めにだしを引くのが基本。めんつゆにしておけば、冷凍保存も可能だそう。
そしていよいよ、お待ちかねのスープが登場です! 作ってくれたのは、「昆布」「トマト」「海苔」を使った、トリプル・グルタミン酸のスープ。
味付けは、昆布水に薄口醤油と塩をほんの少しだけ。プチトマトの酸味、オクラのとろみが混ざり合って、やさしく体にしみるような味わい。手でもみながら、最後にたっぷりと加えた海苔の香ばしさが食欲をくすぐります。
「わあ、おいしい!」。あらためて、うまみの奥深さを感じました。
「お子さんは味覚が敏感なので、だしの教室で試食していただくと みんなおかわりが止まらないんですよ。最初はものたりないかもしれないけど、大人でも少し時間をかければ繊細なうまみを感じる舌になっていきます。ぜひ家で作ってみてください」
終始にぎやかなムードのなか、第3回の体験教室もあっという間に終わりの時間。
参加者のみなさんに感想をたずねると、「知らなかったことばかり」「話が面白くて、ずっと聞いていたかった」「だしがこんなにおいしいなんて」と、それぞれに新しい発見があった様子。終了後も山脇さんのまわりには、たくさんの参加者が集まっていました。
ワークショップ後は、主催者であるやまやコミュニケーションズの『博多の幸 うまだし』を使った、おにぎりとスープを試食。お楽しみ抽選会でさらに盛り上がり、恒例の記念撮影で締めくくりました。
よく知っているはずの昆布だしから、見えてきた意外なうまみの世界。さて、次回はどんな発見があるのでしょうか。どうぞお楽しみに!