恵みのくにへ。
vol.1 なんにもないから、なんでもある村へ・後編

野菜作りや農業で繋がる「縁」を大切にした農縁プロジェクトをはじめ、テレビやラジオで活躍中の川瀬良子さんが、豊かな食や暮らしが息づく地「恵みのくに」を訪れ、人や食との出会い、さまざま発見をレポートします。

 

前編に続き、「なんにもないから、なんでもある」、長野県の限界集落・信級(のぶしな)のお話です。

夕ご飯では、信級の山の幸をたっぷりご馳走になりました。
「ここでは、山がスーパーマーケットみたいなものなの」と寺島さんが言います。
そんな魅力的な山にぜひ入ってみたいとお願いしたところ、翌日に山を案内していただけることになりました。

ところが、翌日は、朝からザーザー降りの雨。
山に行けるのかな?と心配になっていたのですが、石坂さんは、「お昼にはやむよ」と余裕の一言。さすが山の先生!

雨が上がるのを待ちながら、長野の郷土食「おやき」作りをお手伝いをさせていただきました。
具材は、石坂さんが作った採れたての新タマネギ!
タマネギをおやきの具に使うのは地元でも珍しいようで、寺島さんも「初めて!やってみよう!」とはりきっています。
ザックリ切ったタマネギを、味噌、だし、砂糖で味つけして、薄く伸ばした皮に包むのですが、大き目に切ったタマネギがツルツル動くので苦戦。
なんとか皮を引っ張って包んでキュッとくっつけて…おやきらしい丸になりました。
これを15~20分蒸せば完成です。

おやきって、焼かないんだ!とびっくり。
昔は囲炉裏の灰で焼いて仕上げたことから「お焼き」の名がついたそうですが、地域によって、焼くところ、焼いてから蒸すところなど色々あって、蒸す作り方が一番多いんだそう。

できたてほかほかのおやきは、皮がつるんとしてモッチモチ!タマネギはとろみがあるのにシャキッとしていて、お味噌の甘じょっぱさとタマネギの甘さが美味しかった~!

おやきで腹ごしらえをしている間に、雨が上がりました!
石坂先生(と、呼ばせてもらいます)、すごい!
いよいよ山へ。

雨の滴がキラキラと美しい杉林の中を車でくねくねと登って、山の展望台に着きました。
うわぁぁぁぁ~!
そこに広がっていたのは雲海です!
幻想的な風景に鶯の鳴き声が響き渡り、まるでジブリの世界のよう!

本来は、ここから北アルプスが一望できるそうです。霧の隙間からすこーし見ることができました。この景色もまたまた幻想的で、写真も動画もたくさん撮っちゃいました。

山を下る途中、石坂先生は突然車を止めて、一人やぶの中へ入っていってしまいました。
戻ってきた石坂先生の手には、大きなフキが!
どのあたりにフキが自生しているのか、すべて頭にインプットされているんですね。
根元が赤くて、茎は澄んだ緑色。葉っぱまで入れると1メートル弱ありました。

また石坂先生の車が止まります。石坂先生の指差す先には、昨晩デザートでいただいた絶品のモミジイチゴが!
かわいい見た目とは裏腹に、葉や茎にトゲが多くパッと採ることができません。これは収穫が大変だろうなと、実際に見て感じることができました。

続いて立ち寄ったのは、沢ではなく土の中で育つ陸(おか)ワサビの畑です。
そぉんなものがあるなんて、初めて知りました!
苗を植え付けて、食べられる大きさになるまでには2年もかかって、花、茎、芋(根茎=地下に潜った茎の部分)のすべてでワサビの風味がするのが特徴で、無駄なく食べられるのだそうです。
2年もかかると知ると、陸ワサビへのありがたさがグッと上がりますね。
擦り下ろすと白に近い黄緑色で、ワサビ特有香りがします。食べてみるとツーンとするのですが、すぐに消えて爽やか。沢ワサビより、刺激が少ないと思いました。

さらに下ったところには、湧き水を貯めているタンクが。
水道がきていない信級では、湧き水を家までひいて利用しているそうです。
信級のみなさんは湧き水を飲んでいるんですね。
手を伸ばして触ってみたら、冷たいっ!飲んでみたらやわらかくて美味しかった。これぞ軟水!
そういえば、食堂かたつむりでいただいた朝ごはんのお米、ピッカピカで美味しかったな。
「ここで採れたお米は、ここの湧き水で炊くとおいしい」というお話を聞いたところだったので、納得です。

フキや陸ワサビ、山菜をはじめ、モミジイチゴ、メインディッシュに変身するジビエ肉、そして冷たい湧き水まで、山には豊かな恵みがあふれていました。
まさに“山はスーパーマーケット”、素晴らしいですよね!

そして、なんと信級には、コーヒーまでありました!
コーヒーと言っても、コーヒー豆を使ったものではなく、玄米のコーヒーです。
作っているのは、炭焼き職人の植野さん。
農作業のできない冬の間に行う炭焼きの後の釜の余熱=遠赤外線を利用して玄米を焙煎するのだそう。釜の中の全方位からの熱によって、玄米のコクと香りが引き出されるそうなんです。
焙煎する玄米はもちろん、植野さんが信級で育てたものです。
玄米コーヒーにはカフェインが入っていないので、子どもからお年寄り、妊婦さんまで飲めると好評なのだとか。香ばしくて、お米の甘みをほんのり感じるやさしい味のコーヒーでした。

山を熟知し山の恵みを暮らしに活かす、時給自足はもちろん、身の回りの修理も自分で、さらにはコーヒーまで作ってしまう人も。なんにもないからこそ、自分で見つける、やってみる。
「名もない人たちのすごさを実感した」と言っていた寺島さんの言葉を思い出します。
モノだけがなんでも揃っている環境では、できないことだと思いました。

小さい集落だけど、ここ信級は豊かな自然と人の知恵があふれる大きな恵みのくにでした。
「なんにもないから、なんでもある」。
なんにもないからこそ、なにかをたくさん感じることができました。

限界集落を未来集落に!寺島さんと信級のみなさんの思い、私も応援したいと思います!
信級で出会えたみなさん、ありがとうございました。

 

衣装協力 : AIGLE
写真 : Masanori Wakita
川瀬良子 プロフィール

静岡県静岡市出身。
タレント、ラジオパーソナリティ。
16歳でモデルデビュー。2010年 NHK 「やさいの時間」の出演をきっかけに、野菜作りや農業への興味が深まり、農業の活性化や農家と消費者を繋ぐ「農縁プロジェクト」を立ち上げる。現在、NHK「趣味の園芸 やさいの時間」TFM&JFN「あぐりすむ」「あぐりずむ WEEKEND」「暮らしのいきものずかん」などのパーソナリティとしても活躍。自身のプランター栽培での"つまずき"を元にした書籍「川瀬良子のプランター野菜」発売中。