恵みのくにへ。
vol.2 日本最大級の朝市へ・後編

野菜作りや農業で繋がる「縁」を大切にした農縁プロジェクトをはじめ、テレビやラジオで活躍中の川瀬良子さんが、豊かな食や暮らしが息づく地「恵みのくに」を訪れ、人や食との出会い、さまざま発見をレポートします。

 

八戸2日目。
八戸市内から車で約30分、市の南部に位置する南郷地区へ。館鼻岸壁朝市で出会った八戸伝統野菜「糠塚(ぬかづか)きゅうり」の生産農家さんのもとを訪ねます。

訪れたのは、主にニンジンを作っている「南風農園」さん。ご主人の水野浩司さんが案内して下さいました。

目の前には、広大なニンジン畑が広がります。
それにしても、青森でニンジン?と思っていたら、実は全国で4番目に生産量が多いのだそう。青森の中では、八戸市のお隣のおいらせ町が一大ニンジン産地となっているそうです。

水野さんは農薬・化学肥料や除草剤などは使わず、ニンジンをはじめニンニク、大豆などを生産しています。糠塚きゅうりもそのひとつ。
ということで、早速糠塚きゅうりの畑を見せていただくことに。ニンジン畑から、さらに車で移動し、くねくねと5分くらい上っていった林の中に、糠塚きゅうりの畑がありました。鶯やセミなどの鳴き声が響き渡っています。

「これが、糠塚きゅうりです。ぬかづかきゅうり、ぬか漬けじゃないですよ(笑)」
糠塚きゅうりは、八戸市糠塚地区で江戸時代から作られている伝統野菜で、青森県内にもあまり出回ることのない、稀少なきゅうりなんだそうです。

アーチ型のパイプ支柱にツルをしっかり伸ばして、ずんぐりどっしりとしたきゅうりが何本もぶら下がっていました。
その姿・形は「わしは、伝統野菜じゃ」と言っているかのような貫禄が(笑)

6月下旬から収穫が始まり、7月が最盛期。8月の中旬頃には収穫が終わることから、八戸市の夏の風物詩になっているそうです。
「糠塚きゅうりを食べないと、夏が来た感じがしない」と言っている方も!私にとっての、スイカのような存在なのかなぁ~。

太さはゴーヤぐらいあって短く、色は黄緑色で縞模様があり、おなじみのきゅうりとは全然違います。イボは黒くて、上の方が茶色くなってきたら収穫適期。
普通のきゅうりに比べて栽培が難しく収量が少ないので、近年では生産者が減っているそうです。水野さんは、「糠塚きゅうり生産伝承会」のメンバーで、自家採種をしながら貴重な品種を守るため頑張っていらっしゃいます。

蜂が普通のきゅうりの花粉を運んで交配してしまうことがあり、交配してしまうと糠塚きゅうりの特徴でもある肩が張ったような形がなで肩になったり、スラーッと細くなったりと、形が変わってしまうんだそう。
これは事件ですよね~。大変だ!
だから、周りに畑のない離れた場所で糠塚きゅうりを栽培して守っているのだそうです。

さて!早速収穫!

「独特の色味がきれいですね~!」
「僕もその色が大好きなんですよ!」と、水野さん。
この言葉に、この時期にしか会えない糠塚きゅうりへの愛情をものすごく感じました。

糠塚きゅうりに手を添えてみると、チクッ。イボイボが痛い!この痛いくらいのイボが、新鮮な証拠なんだそうです。

収穫してみると、1本のずっしりとした重みに驚きました!
1本の糠塚きゅうりで、一般的なきゅうり5本分ぐらいの重量感があります。

食べ方は、皮をむいて中にびっしりある種をスプーンなどでとって、味噌をつけて食べるのが八戸スタイルだそう。
食べてみると、ポリッ!と良い音。
普通のきゅうりよりしっかりした食感で、きゅうりの青いにおいも控えめ。ほのかにメロンのような香りも。皮に近い部分にほんのり苦味があり、大人の味です。
「おいしぃ~!」
タネはやわらかいので、食べても私は気になりませんでした。

これが八戸の夏の味かぁ~!八戸のみなさんがうらやましい!
この味が今もあるのは、水野さんはじめ伝承会のみなさんが伝統を守っているからこそ、なんですよね。
感謝の味でもあるんですね。

ニンジン畑に戻ってきました。
おばあちゃんたちが、ニンジンの芽の間に生えている雑草を、黙々と手でとっています。
この畑に到着したときから、今までずっと同じ畝にいらっしゃったので、1時間はここの畝(うね)の雑草とりをしていたのでは…!?

雑草って根っこからとらないとまたすぐに生えてきてしまいますし、ニンジンの根を傷付けないようにとらなければいけないので、とても繊細な作業なんですよね。
除草剤などを使っていない水野さんの栽培に、おばあちゃんたちのチカラは欠かせないそうです。

ニンジンは、大根などに比べると種を蒔いて収穫できるまでの時間が100~120日と倍の時間がかかるそうです。水野さんの育てるニンジンは化学肥料などを使っていないので、さらに10日ほど収穫が遅くなるそう。
「めちゃめちゃ遅いです。無謀なことをやっているなと(笑)。でも、おいしいんですよ。色も綺麗ですし」と、水野さん。
採れたてのニンジンをいただいたら、綺麗なニンジン色と香りと味の濃さにおいしくてびっくりして、唸ってしまいました!
ドレッシングなどは必要ありません。ニンジンの味がしっかりしました。

そして、水野さんのニンジンをまるごと使った大人気のニンジンジュースもいただきました!ドロっとした舌触りで、とろける甘みと香り。ニンジンからこんなに甘みを感じたことはありません。
感動を伝えると、
「まだまだですよ。ニンジンの気持ちになって、もっとニンジンを知りたいんです。だから服もなるべくニンジン色を着ています(笑)」と照れながら水野さんは語ります。

ニンジンを作るのではなく、ニンジンになる。
これはおいしいものが出来るわけだ!
水野さん、ありがとうございました!

ところで、水野さんの畑があった八戸市の南郷地区は自然がとても豊かなところでした。

廃校になった校舎を活用し、昔の暮らしなどを体験出来る交流施設「山の楽校」の校舎裏には、200万本の黄色い花が出迎えてくれるひまわり畑がありました(見頃は8月下旬)

ぬくもりを感じる木造校舎の中には農家レストランもあって、地域特産のお蕎麦もいただきました。8月下旬にはそばの花も楽しめるそうです。

 

朝市におせんべい、そして伝統野菜…地元の方との出会いを通じて見えた八戸の暮らしの中に“恵みのくに”がありました。
豊かな食、古き良きものを大切に守っていく八戸の文化、素敵です。
八戸で出会えたみなさん、ありがとうございました!

 

 

衣装協力 : AIGLE
川瀬良子 プロフィール

静岡県静岡市出身。
タレント、ラジオパーソナリティ。
16歳でモデルデビュー。2010年 NHK 「やさいの時間」の出演をきっかけに、野菜作りや農業への興味が深まり、農業の活性化や農家と消費者を繋ぐ「農縁プロジェクト」を立ち上げる。現在、NHK「趣味の園芸 やさいの時間」TFM&JFN「あぐりずむ」「あぐりずむ WEEKEND」などのパーソナリティとしても活躍。自身のプランター栽培での"つまずき"を元にした書籍「川瀬良子のプランター野菜」発売中。