恵みのくにへ。
vol.8 太陽と水の恵みを探しに信州佐久へ・前編

野菜作りや農業で繋がる「縁」を大切にした農縁プロジェクトをはじめ、テレビやラジオで活躍中の川瀬良子さんが、豊かな食や暮らしが息づく地「恵みのくに」を訪れ、人や食との出会い、さまざま発見をレポートします。

 

こんにちは。川瀬良子です。

トマト、ピーマン、ナスなど、夏野菜がまだまだ収穫できる9月。
野菜をおいしく育てるためには、お日様の光とお水は欠かせないものですよね。

今回は、太陽やきれいな水が育む“恵み”を探しに、長野県の佐久へ行ってきました。
佐久は、全国でも晴天率が高い地域で、良質な水にも恵まれているんだそうですよ。

北陸新幹線佐久平駅を降りて、最初に向かったのは、佐久穂町にある「八千穂漁業」です。
海に面していない長野県で漁業???
どんなところで?何を?想像ができませんでした。

 

たくさんの生簀(いけす)が並ぶ養殖場を、代表の佐々木信幸さんが案内してくださいました。

ここでは長野県のブランド魚「信州サーモン」と「信州大王イワナ」をはじめ、数種の魚を養殖しているそうです。

「信州サーモン」とは、ニジマスのメスとブラウントラウトのオスを交配させたもので、“生まれてくるすべてが卵を産まないメス”という魚です。

産卵しないので、産卵に使う栄養やエネルギーがそのままうま味となり、きめ細かい肉厚な紅色の身にギュッと凝縮されるのだそう。


2kg以上に成長した出荷間近の信州サーモン。

 

生簀ごとに、サイズの違うサーモンが泳いでいます。
ここでは2~3年間、サーモンをていねいに育て、2~3kgになったら出荷するそうです。

信州サーモンを見せていただくと、勢いよくピチピチと跳ねて大暴れ!
「もっと大きいのもあるよ!」
と、3㎏以上で勢いよく動く信州サーモンを持ち上げる佐々木さんも大変そう!
私の顔にも容赦なく水飛沫が飛んできます(笑)冷たっ!


出荷間近の信州大王イワナ。こちらもすごい勢い!

 

そして、八千穂漁業さんが、もう一つ力を入れているのが「信州大王イワナ」です。
「信州大王イワナ」も、信州の清らかな水と長野県水産試験場の高度なバイオテクノロジー技術によって生み出された品種だそう。
餌にもこだわり、約2年半育てて、1~1.5㎏で出荷するそうです。

また、この地域は、冬にはマイナスの気温まで下がるほど寒いそうですが、こうした厳しい冬を越した魚は、身もひきしまり、さらに美味しくなるそうです。

 

こちらの養殖場に注がれているのが、八ヶ岳の麓から流れ出る清流「千曲川」の支流、「大石川」の水です。
大石川の水は、透明度が高く、夏でも水が冷たいので、サーモンやイワナを育てる水温に適しているそう。
触ってみると8月なのにヒヤッとするくらい冷たかったです。

「池の中の水がきれいなので、養殖場にありがちな魚の臭いが気にならないのが、うちの養殖場の特徴でもあります」

確かに、ここの養殖場には、生臭い臭いが一切漂っていません!
それだけキレイな水が常に注がれ、衛生管理も徹底されていることが伺えます。
こうした清らかな水が、良質な魚の身を育て、香りのよいものにしているんですね。

「うちの魚は、川魚独特の臭みがありません。川魚が苦手な方にこそぜひ食べていただきたいです。今までのイメージを覆すと思いますよ」

すると佐々木さん、試食を用意してくださいました!


信州サーモンの刺身(左上)、炙り(左下)、スモーク(中央)。信州大王イワナの刺身(右上)とカルパッチョ(右下)

 

信州サーモンの鮮やかな紅色!お箸で持ち上げて眺めてしまうほど綺麗!
トロリととろけるのに身がプリっとしまっていて、臭みなし。絶品です。
スモークサーモンは旨味がギュギュっと凝縮されていて、一口でファンになりました。

そして、白身が「信州大王イワナ」。
初めていただく川魚のお刺身。川魚のお刺身ですよ!?珍しいですよね~!
透き通る綺麗な白身に感動!
適度に脂がのっていて、甘みがあるのにあっさり!

どちらも、おいし~!
川魚のイメージが、本当に変わりました。ご馳走さまでした!

「大変なことは自然相手、生き物相手ってことですね。でも、おいしいと言って頂く言葉が、私たちの励みになります」

清らかな水と気候…さらに佐々木さんの様なベテランの魚飼いさん達の努力と頑張りが、信州自慢の魚を育むことがわかりました。
笑顔でたくさんお話をしてくださった佐々木さん、ありがとうございました!

続いて向かったのは、同じく佐久穂町にある「きたやつハム」さん。
地元でも「本格的なおいしさ」と評判のハム屋さんだそうです。

社長の渡辺 敏さんが案内してくださいました。

渡辺さんは、本場ドイツでハム作りを学び、2012年にこの「きたやつハム」を設立。
こだわりのハムやソーセージ作りのために、その素材となる豚の飼育も手掛けているそうです。
しかも、放牧スタイル。
豚舎は取材などで何度か行ったことがあるのですが、豚を放牧する飼育法は初めて!
全国的にも珍しいそうです。


養豚場の中を元気に走り回る豚たち。好奇心旺盛なのかこちらの様子をうかがっています。

 

早速、養豚場に連れていっていただきました。

豚さんたちは突然の来客に驚いたのか(笑)、一斉に反対側へと走り出しました。
大きなお尻をぷりっと振って走っている姿がたまらなくかわいい!!

通常の豚の肥育期間は、だいたい6カ月です(飼料代もかかるので)。ですが、こちらでは9か月間じっくり育てているそうです。

病気など心配ではありませんか?と尋ねたところ、
「ここの豚はストレスがないせいか、免疫力が高く、ほとんど病気はしません」と、渡辺さん。
専属の獣医師もいるそうで、常に豚の健康管理を行いながら、スタッフの皆さんで愛情をたっぷり注いで育てているそう
豚が元気だと、肉質が良くなり、おいしいハムを作ることができるそうです。


2012年~16年、本場ドイツの農業協会国際ハム・ソーセージ品質コンテストで金賞・銀賞を連続受賞したのだそうです!

 

「八ヶ岳の麓にある佐久穂町は、内陸性気候で、ドイツの気候に似ているんです」
八ヶ岳の伏流水と澄んだ空気、夏は涼しく冬は厳しい…このような気候風土が、ハム作りにとっても適しているそう。

八ヶ岳の地下で磨かれてきた水は優しい軟水で、製造で使用する塩が溶けやすく、塩の役割を十分に引き出してくれるのだそうです。

「この水を使ってハムやベーコンを作るので、水は大事ですね。さらに、うちは、豚も同じ水を飲んでいますからね。いい水を飲んでいるので健康で、肉も美味しいです」

なるほど、ハムやベーコン作り、そして養豚には、「水」がとっても大切なんですね。


豚骨付きもも生ハム(写真奥)とベーコン。

 

こちらの製品は、着色料や増量剤などの添加物は不使用。
岩塩など5つの天然塩をブレンドしており、製品によって配合を変えるなどして、素材のおいしさを引き出しているそうです。

渡辺さんが、自社のハムやソーセージ、ベーコンの試食を用意してくださいました。
見慣れていたベーコンなどより、お肉!という色をしています。

「まずは、ベーコンを冷たいまま食べてみてください」

え~?脂がベタっとしそう…と思いながらも口に入れてみると、さっぱりとした脂が口の中で溶け出しました。噛むごとに全体からうま味があふれてきます。塩加減も調度よく、あっさり!

続いて、生ハム。
こちらの「きたやつ生ハム」は、乾燥・熟成の工程を経て1年以上かけて仕上げ、商品になるのだそう。手間暇かかるんですね~!

「“時間をかける”ことも、調味料のひとつです」と、渡辺さん。

試食してみると、生ハムの絶妙な塩加減に驚きました!
生ハム=しょっぱいと思っていたのですが、そうではないんですね!
お肉そのもののうま味をしっかりと感じます。

また、きたやつハムさんでは、週末にBBQイベントを開催し、地元の方との交流を大切にしているそうです。
「なにより、地元の方にたくさん食べてほしいと思っています」と渡辺さん。
これぞ地産地消ですね!ご近所のみなさんがうらやまし~!

佐久穂町の風土を活かし、素材すべてにこだわって安心安全でおいしいもの届けたい、という渡辺さんの想いが、伝わってきました。
渡辺さん、ありがとうございました。

 

 

続いて訪れたのが、きたやつハムさんの、すぐ近くにある「りんごやSUDA」さんの、果樹園です。

代表の須田治男さんは、神奈川県のレストランでソムリエとして働いていたそうですが、35歳のときに、両親が営む果樹園を継ぐことを決め、地元に戻ってきたそうです。

 

こちらの果樹園があるのが、標高900m。りんごを栽培するのはぎりぎりの標高なのだとか。

「ここは標高が高いので、寒暖差が大きいのですが、この寒暖差によって、りんごの色づきも良くなり、実もしまって甘みが増し、香りも良くなるんです」

さらに、ここは日照時間が長く(晴天率が高い!)、降水量も少ない、八ヶ岳からの風も吹き抜ける…と、様々な条件が整い、りんご栽培には好都合なのだそうです。

 

現在、須田さんが育てるりんごは、13種類。
中でも最近、力をいれているのが長野県オリジナル品種「シナノドルチェ」だそうです。

こちらの畑は、先ほどの畑の木と、枝ぶりがずいぶん違います。

これは「高密植栽培」という世界的に主流になっている新しい栽培方法で、長野県が栽培研究、普及を推進しているそうです。
狭い感覚で木が植えられているのですが、隣の木と近い分、根は下へ下へとより深いところへ伸びていき、土のミネラル分を多く吸ってくれるので、りんごがよりおいしくなるのだそう。

一見、小ぶりな木に見えますが、高さは4メートル程になって、1本からは約60個ものりんごが収穫できるそうですよ。手入れや収穫がしやすいなどのメリットもあるそうです。

 

そんな、須田さんの果樹園で、間もなく収穫を迎えるのが「プルーン」なのだそうです。

こちらで育てられているのが、長野県のオリジナル品種「サマーキュート」と「オータムキュート」。
どちらも甘みが強く、酸味とのバランスが良い。ジューシーで、食べた後も良い香りが広がるのだそうです。


ビニールの屋根でレインカットした果樹園

 

「ん?」見上げると、果樹園全体がビニールの屋根に覆われています。

完熟前の実は雨にとても弱く、水を吸って割れたり、果実の表面がシワになってしまって商品として売ることができなくなってしまうそうです。
そこで、収穫1か月前になると果樹園全体をビニールで覆って、“レインカット”をするそう。
しかも、プルーンの収穫時期は、たったの10日間!だそうです。短~い!
(つまり売られている期間も10日間程しかありません)

だからスーパーなどで、なかなか生のプルーンと出会うことができないんですね。
このように、プルーン栽培は作業にとっても手がかかるので、今は生産者さんが少ないのだそう。
国産プルーン。貴重な果物なんですね~!

須田さんが大切に育てたプルーンはおいしいと評判で、なんと今年9月の下旬から新宿タカノでも取り扱いが始まるのだそうですよ!


須田さんが作ったシードル「サクホ・テロワール レ・ポム・ドゥ・ムース」。

 

ところで、須田さんは、りんごを使った商品開発も積極的に行っているそうです。

ソムリエの経験を活かして作ったのが、シードル。
13種類のりんごをブレンドしてじっくり発酵させることで、複雑味のある辛口が特徴のシードルは、なんと今年のジャパン・シードルアワードにて味で2つ星、デザインで3つ星を獲得したそうですよ!

また、地元の酒蔵・黒澤酒造さんとコラボして、プルーンとりんごを使ったリキュール「リキュール ド ポム」も販売しているそうです!

「これからも、果物の楽しみ方をいろいろ提案していきたいですね」と須田さん。

元ソムリエの須田さんならではの視点で、これからも色々なものを生み出していくのではないでしょうか。楽しみですね~。

須田さん、ありがとうございました。

まだまだ佐久を巡って、太陽と水が育む恵みを探しますよ~。
後編を楽しみに!

川瀬良子 プロフィール

静岡県静岡市出身。
タレント、ラジオパーソナリティ。
16歳でモデルデビュー。2010年 NHK 「やさいの時間」の出演をきっかけに、野菜作りや農業への興味が深まり、農業の活性化や農家と消費者を繋ぐ「農縁プロジェクト」を立ち上げる。現在、NHK「趣味の園芸 やさいの時間」TFM&JFN「あぐりすむ」「あぐりずむ WEEKEND」「暮らしのいきものずかん」などのパーソナリティとしても活躍。自身のプランター栽培での"つまずき"を元にした書籍「川瀬良子のプランター野菜」発売中。