恵みのくにへ。
vol.4 新潟で郷土料理「のっぺ」体験

野菜作りや農業で繋がる「縁」を大切にした農縁プロジェクトをはじめ、テレビやラジオで活躍中の川瀬良子さんが、豊かな食や暮らしが息づく地「恵みのくに」を訪れ、人や食との出会い、さまざま発見をレポートします。

 

こんにちは!川瀬良子です。

暮が近づいてきましたね~。ということは、もうすぐお正月!

新潟県では、お正月に必ず食べる「のっぺ」という郷土料理があるそうです。
ん?のっぺ?食べ物っぽくない名前。なんだろ。
さっそくどんなものなのか、見てみたい!食べに行きたい!

 

東京から新幹線でおよそ2時間、新潟駅は雪がちらついていて冬本番。
まず向かったのは、新潟駅から西へ車で40分程、日本海に面した新潟市の岩室地区(旧岩室村)へ。
道中、見渡す限りの田園風景が広がっていました。さすが米どころ新潟です。
そして、その田んぼには白鳥が!
シベリアから越冬のために飛来した白鳥たちが餌を食べているんだそうです。
いやぁ~“白鳥の湖”ではなく“白鳥の田んぼ”に癒されました。

今回、「のっぺ」について教えてくださったのは、岩室の「ごっつぉ作りの会」のみなさん。
「ごっつぉ」とはご馳走のこと。
「ごっつぉ作りの会」はのっぺをはじめ、呉汁や笹団子、いわし団子などの郷土料理をおばあちゃんたちの代から地域の若い人たちや、お孫さん世代にまで伝える活動をしているそうです。
講習会には20代30代の若い人たちも参加するそうで、この会の活動によって、この地域では確実に郷土料理が受け継がれているようです。

公民館に入り、元気な笑い声が聞こえてくる方へ進んでみると、調理室へ着きました。
待ち合わせの時間に着いたのに…あれ~、すでに始まってる?!
慌ててエプロンをつけてお手伝い!

「私たちが野菜を切るから、あなたは味付けをしてくださいね。」
いやいやいやいや。味がわからないんですよ~(笑)

味付け係りではなく、食材切り係りになり…(ホッ)、
みなさんとワイワイ料理をしながらいろいろとお話を伺いました。

まず、「のっぺ」とは新潟の郷土料理で、野菜をたっぷり使った煮物ということでした。
小さく切った里芋、ニンジン、ごぼう、しいたけ、ぎんなん、鶏肉などを薄い醤油味の出汁で煮た新潟県の代表的な家庭料理なんだそうです。とろみがあるのも特徴で、これは里芋のぬめりなんだそうです。

この日に使った食材は、
里芋、レンコン、人参、タケノコ、ごぼう、こんにゃく、かまぼこ、銀杏、干ししいたけ(もどし汁も使う)、ホタテ缶(汁ごと)、スナップエンドウ(彩り)

決まったルールは特にないそうですが、野菜と練り物、合わせて5品は入れるとのこと。特に欠かせない野菜は「里芋」。野菜は細かく切ること。そして、しいたけではなく、干ししいたけを使って、戻し汁をすべて使うとのこと。
おばあちゃんは、「干ししいたけのもどし汁が一番大事」とも言っていました。

「味付けのコツは?」ときくと、
「とにかく味見をする!」とおばあちゃん。
ポイントは、長年の勘かぁ~!

みりん、酒、醤油をちょっとずつ何度も入れて、何度も味見をしていました(笑)
たっぷりの食材から出た、出汁のいぃ~香り!
煮物の香りって、懐かしくてほっとしますね。

「のっぺ」の完成です!
今回はお正月バージョンで、イクラを添えてくださいました。彩りがいっきに“おめでたい”印象に!
里芋から出た自然なとろみに、食感の違う野菜たちに出汁が染み込んでいてやさしい味わい。野菜、ホタテ、干ししいたけそれぞれの出汁がしっかり馴染んでいました。

のっぺはお正月やお盆、お祭りなどのハレの行事、法事などのほか、一年中家庭で食べられているそう。特に里芋が出回り始めるとよく作るんだそうです。そして、同じ新潟でも、地域や家庭によってさまざまなスタイルがあるそうです。

ところで、「のっぺの名前の由来はなんですか?」と聞いたら、賑やかだったみなさんがシーーーン。
おばあちゃん達にとっては、当たり前の料理で、名前の由来なんて考えたこともないみたい。こちらでネットで調べることに(笑)
名前の由来は、諸説いろいろあるみたいですが、汁にとろみがついた状態を表す「ぬっぺい」から来ているみたいです。

「ご馳走様でした」と、みなさんで片付けをしていると
「あー!ちくわを入れるの忘れたね~!前回はホタテ缶入れ忘れたのよ~アハハ」と(笑)
きっと毎回違う味になることも、また食べたくなる隠し味なんでしょうね♪

のっぺの他にも、ずいき(里芋の茎を乾燥させた保存食)を使った「ずいきの油炒め」、菊の花びらが入ったカラフルな酢の物「かきあえなま酢」も作っていただきました。
普段なかなか食べる機会のないずいきや、菊の花。
新潟伝統のおばあちゃんの味は、不思議とどこか懐かしい味でした。

「ごっつぉ作りの会」のみなさん、楽しくておいしい時間をありがとうございました!
こんなに笑いながらみんなでお料理を作ることもなかなかないので、本当に楽しかったです。
もっといろいろ教わりたいので、また会いに行きたいな~!

 

「のっぺには里芋!」ということで、里芋の産地・五泉市も訪ねることにしました。新潟県五泉市は、県内一の里芋の産地なんだそうです。
「帛乙女(きぬおとめ)」という高級ブランド里芋があるそうで、お歳暮や贈り物としても重宝され、人気のためお歳暮の時期は予約必須なのだとか。

訪ねたのは、五泉市で40年以上里芋を作っているせきかわ農園さん。
代々農業を受け継いできた10代目の関川義之さんにお話をお聞きしました。

関川さんが作る里芋は「大和早生」という品種で、五泉市では昔から作られているそうなんですが、中でも選び抜かれたさといもたちが「帛乙女」として出荷されるのだそう。
「食べた時の食感、舌触りがなめらか、独特の強いぬめりが特徴です」と、関川さん。

すでに11月に収穫を終えているということだったので、里芋の貯蔵庫を見せていただけることに・・・。

なんじゃこりゃ~!!

1メートル以上の高さに積み上げられた里芋にビックリ!!
横幅5メートル、奥行きは18メートルの広さのハウスに、およそ20トンの里芋が貯蔵されているそうです!
土の中にワープしたかのような気分に。もぐら目線とでもいうのでしょうか!?
これはすごい!

畑から掘り採る収穫はトラクターでできるそうなんですが、その後は、土がついた状態の1株10キロにもなる里芋を、手作業でトラックに積んで運んで、また手作業でこのハウスに降ろして積み上げ、貯蔵し、春まで出荷していくそうです。

土がついた状態にしておくのは、保存のため。
出荷作業も毎日1株1株手作業で運んで1株ごとに親芋、子芋、孫芋を1つずつ切り離し(「欠く」と言うそうです)、根や土をとってきれいにしながら大きさ、形を見ながら選別していくそうです。
「里芋は形が全部違いますからね。縦に長いもの、丸いもの、お客様のニーズに合わせて選別しています」と関川さん。
こんなに手間がかかるなんて…、里芋が高価な理由がよくわかりますね。

土がついた大きな塊の状態から、水で洗って土を落として1つずつ“欠く”作業を見せてもらいながら、私もお手伝いさせていただきました。

大家族がギュッとくっついて集まっているところから、親・子・孫と欠いていくと、ひ孫もいた~!
欠く方向を間違えるとキズがついてしまうので、コツを掴むまでが一苦労。
綺麗に欠くためにも、思ったよりも指先の力が必要です。
1株の里芋を欠いていくとだいたい20個ぐらいの里芋が採れるそうです。

この辺りでは食べるだけではなく、昔から里芋の株を玄関や床の間などに飾る風習もあるのだそうですよ。飾る時はどんなお気持ちですか?と聞いたら
「無事収穫が終わって、その年の作柄を振り返りますね〜」と、関川さん。
大切に大切に育てているんですね。感動!

なんと!関川さんのお姉さん礼子さんが、のっぺを作って待っていてくださいました!
「うちの里芋はおいしいですよ!」
前日から作っていてくださったそうで、出汁がまろやかで、よく染みていておいしかった!

礼子さんのお子さんたちものっぺが大好きなんだそうです。
しかも、貝柱を入れ忘れると「味が物足りない」と訴えるほどののっぺ通!
この地域では給食にも出され、調理実習でものっぺを習うそうです。
新潟のみなさんは、のっぺでうま味や家庭の味、郷土料理を学んでいくのかなぁ~。
関川さん、ありがとうございました!

今回は、のっぺを受け継ぐ皆さんの笑顔の中に「恵みのくに」を見つけました。
その土地の気候風土や特産物が生み出した郷土料理って奥が深いですね。
家庭の味、郷土料理の大切さを改めて感じました。
年末年始、実家に帰って母の味を食べられることがとっても楽しみになりました。

取材でお世話になったみなさん、本当にありがとうございました!
これからは里芋を見るたびに、新潟で出会った皆さんを思い出しそうです♪

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新潟県の魅力満載のポータルサイト、「新潟のつかいかた」はこちらから。
https://howtoniigata.jp/

新潟食材を使ったアレンジレシピ特集「産直レシピ!おうちで新潟気分」
https://howtoniigata.jp/article/recipe/

 

衣装協力:AIGLE / 帽子:カブロカムリエ
川瀬良子 プロフィール

静岡県静岡市出身。
タレント、ラジオパーソナリティ。
16歳でモデルデビュー。2010年 NHK 「やさいの時間」の出演をきっかけに、野菜作りや農業への興味が深まり、農業の活性化や農家と消費者を繋ぐ「農縁プロジェクト」を立ち上げる。現在、NHK「趣味の園芸 やさいの時間」TFM&JFN「あぐりずむ」「あぐりずむ WEEKEND」などのパーソナリティとしても活躍。自身のプランター栽培での"つまずき"を元にした書籍「川瀬良子のプランター野菜」発売中。