世界からも注目される「umami」

和食には欠かせないうまみ。うまみと聞けば、だしのじんわりした味わいを思い浮かべますが、いま世界的に注目されている「umami」とは、単なるおいしさを示す「旨味」のことではありません。

味にはもともと、甘味、塩味、酸味、苦味の4つの基本味があり、これで食べものの味が決まるとされてきました。これに新しく加わったのが第5の味覚、「うまみ」です。あらゆる食材に、うまみの成分が共通して含まれることがわかったのです。昆布やかつおにはうまみ成分が豊富に含まれるためですが、今やこのumami、和食だけのものではありません。

チーズやトマト、ベーコンなど世界で親しまれる食材にもうまみ成分がたっぷり含まれることがわかってきました。世界中の発酵・熟成食品もしかり。人びとは長い歴史の中で経験からうまみを増やしておいしく食べる工夫をしてきたのです。

うまみが科学的に証明され、世界で認められたのはごく最近のこと。調味料に頼りすぎない、食材のもつ味を生かした調理法が意識されるようになりました。今、新しい食の世界が幕をあけようとしている。それが、世界中が「umami」に注目している理由なのです。

撮影:フルタヨウコ

うまみ成分とは?

では、うまみの実態とは何でしょうか?科学的な話になりますが、「うまみ成分」には次の三つの種類があります。

1つ目は野菜や生ハム、昆布、チーズなど多くの食材に含まれるアミノ酸の一種グルタミン酸。2つ目は、肉や魚などに多いイノシン酸、そして3つ目が乾しいたけや海苔などに含まれるグアニル酸です。これらの成分にナトリウムやカリウムなどが結合した塩類の味がうまみ物質として定義されています。

なんと、これを発見したのは日本人でした。旧東京帝国大学の池田菊苗(きくなえ)博士は、昆布に浸した湯豆腐には、甘味、塩味、酸味、苦味の4つの味では説明できないもう一つの味があることに気付きます。そして1908年、トマトやチーズ、ベーコンに含まれる成分と同じ成分が昆布にも含まれることを発見。それが昆布だしの味の主成分グルタミン酸。これを「うまみ」と名付けました。
1913年にはかつお節のうまみがイノシン酸であることを小玉新太郎氏が、国中明博士がグアニル酸を発見。それからじつに100年近くの時を経て、世界に認められる事実となったのです。

参考:NPO法人うま味インフォメーションセンターHP

うまみの相乗効果

さらに、うまみには相乗効果があることもわかっています。二つの異なるうまみを同時に取り入れると、うまみが何倍にも増すということ。
例えば、トマトとベーコンを一緒に料理に使うと、個別に味わった時より何倍もおいしく感じるというのです(!)

「グルタミン酸×イノシン酸」もしくは「グルタミン酸×グアニル酸」のかけ合せで起こるこの作用。私たちが日頃よく食べる献立も、じつはこの構造になっていることに気付きます。筑前煮、肉じゃが、刺身のツマに大根を合わせることも、おひたしにかつお節をかけることも。無意識にうまみを増す効果を用いていたのです。

その最たる例が昆布とかつお節の合わせだし。昆布はグルタミン酸がもっとも多く含まれるトップフードで、かつお節はイノシン酸の多い食材。まさにゴールデンコンビです。ある実験では、この相乗効果によりそれぞれの食材を個別に味わったときの7〜8倍のうまみが得られるとも言われています。

和食とうまみ

うまみの発見によって、和食がいかにうまみを生かした料理であるか、世界中に示されることになりました。だしをベースにした和食は、“うまみを基本に構成する料理”といっても過言ではありません。素材そのものの味や香りをそのままに料理をおいしく仕上げる。四季や風土豊かな日本だからこそ育まれた食文化とも言えるでしょう。
さらに日本では、食材を長期保存するために発酵・熟成させる工夫も行われてきました。味噌やしょうゆ、酢などの調味料に、納豆や漬物など。菌やカビの作用を生かして素材のタンパク質を分解することで、うまみが増します。

海外にも、フランスのブイヨンや中国の湯(タン)など、うまみを生かしたさまざまなだしがあります。ところが生クリームやバターなど乳製品や油を使って味やコクを出す料理が多いため、食材そのものの味が出にくいとも言われます。そこに「umami」の考え方が加われば、調味料や油を抑えて素材の味を生かした、ヘルシーな調理法に変わるかもしれません。うまみの発見は、味だけでなく、人の栄養面や健康面にもいい影響を及ぼす可能性を秘めているのです。

撮影:フルタヨウコ
参考:NPO法人うま味インフォメーションセンターHP/『うま味って何だろう』(岩波ジュニア新書)