味博士の子供とうまみ教室 Vol.5
〜世界の離乳食に見るUMAMIの存在〜

umamiのおべんきょうprojectの連載は、
農家さんや料理家さんなど食の現場に関わる方々から
“おべんきょう”になるお話しをうかがいます。

“味博士”としてテレビや雑誌でもおなじみ、味覚の研究者・鈴木隆一さんによる、子供と味覚に関する連載です。子供の味覚を鍛えるには? 子供はどううまみを認知しているの? といった疑問を、科学的な見解から紐解いていきます。

日本ほど離乳食に手をかける国はない!?

赤ちゃんの味覚形成は、お母さんが妊娠4か月の頃から始まると言われている。羊水にお母さんが食べた食事の風味が移り、胎児はその羊水を飲んで成長していく。お腹のなかで既に、味に反応しその違いも認識できるという。

お腹のなかで感じた味の記憶は、生まれた後も覚えていて、ごくわずかであるが、生後の好き嫌いに影響を与えているようだ。つまり、赤ちゃんがお母さんのグルメ体験を共有しているのである。

日本のお母さんたちは、こういう話を聞くと、とても繊細にとらえて出産前の食事に気をつけたり、離乳食を手作りしたりと、頑張る人が多いかもしれない。けれど世界のお母さんたちは、実はそれほどこだわってはいないようだ。

離乳食をとってみても、たとえばアメリカでは、市販の瓶詰めベビーフードに頼るのが一般的で、手作りするお母さんは少ない。離乳初期は、牛乳で溶いた粉末状のライスシリアルを、電子レンジで温めて食べさせている。

『世界で一番健康的な食事をとる国ランキング』で1位を獲得したオランダは、質素な食文化を持つことで有名だ。当然離乳食もシンプルで、主食のジャガイモや野菜を煮て柔らかくしたものや、つぶしたバナナなどを与えている。

海外では、特別な離乳食がない国も多く、大人の食べものを小さく刻んだり、柔らかく煮たりするだけの場合もあるのだ。そんなわけで、今回は少し視点を広げて、海外の離乳食事情を紹介しながら、子どもとうまみについても見ていきたい。

取り上げるのは、日本と同じ東アジアで食文化も近い韓国と、パスタやピザなど日本人におなじみの味を持つイタリアの2か国。早速見ていこう。

※1)『世界で一番健康的な食事をとる国ランキング』は、2014年イギリスの国際非政府組織NGOのOxfamにより世界125か国を対象に実施された。

似ているようで違う!? 韓国の離乳食

まずはお隣の国、韓国の離乳食から。日本と共通点が多く、離乳食を手作りするお母さんも多い。しかし韓国の食文化は、モンゴルの影響を受けたこともあって、肉食で香辛料を好む傾向がある。その傾向は離乳食にもしっかり反映されている。

基本食は日本と同様、お米のお粥である。ただし、韓国ではもち米をお粥にする文化があるため、離乳食でも、もち米をうるち米に混ぜて使っている。そして家庭によっては、お米をゴマ油で炒めてからお粥にする。

日本と大きく違うのは、離乳食の開始直後から牛肉を食べさせる点だ。これは鉄分補給が理由だが、この習慣は古くから肉を食べてきた韓国ならではであろう。牛肉は裏ごししたり柔らかく煮てお粥に加えているようだ。

逆に類似している点を挙げるならば、だしや豆を発酵させた調味料を多用する点であろう。離乳食でも、鳥肉、あさり、煮干や昆布などでだしをとってスープにしたり、お粥に加えたりする。また、韓国味噌テンジャンもお粥の味付けによく使われている。

テンジャン(甜醤)は、日本のみそと違って酵母が熱に強い性質を持っている。そのため沸騰させて煮込むほどに、素材の旨みを引き出すのが特徴だ。日本と同じく、旨みと深い関係のある発酵食品を食べる文化が受け継がれてきたのも、離乳食期から食べていることと、決して無関係ではない。

ちなみに発酵食品であるキムチも、水洗いして辛さを抜いた上で1歳を過ぎた頃から離乳食として食卓に登場する。

ザ・イタリアンな離乳食にビックリ!

イタリアは、ヨーロッパ諸国の中では比較的手作りをするほうではあるが、食品の安全性と衛生上の観点から、市販品の離乳食を好む傾向にある。日本と違って手作りが一番、という価値観ではないようだ。

パスタが主食のイタリアでは、デュラムセモリナ粉をミルク粥にしたものを基本とする。スープに使った野菜やお肉のペーストなども離乳食に食べられている。また、じゃがいもやセロリ、ズッキーニやニンジンを一緒に煮て作るポタージュスープもよく作られているようだ。

慣れてきたら、これらにエキストラオリーブオイルやパルミジャーノ・レッジャーノを徐々に加えて慣れさせるのが一般的。意外かもしれないが、エキストラバージンオリーブオイルの脂肪分は母乳に含有する脂肪分と成分が近い。日本でも、母乳に含まれるうまみと同じ成分が含有する「だし」を使うが、同じ発想である。

パルミジャーノ・レッジャーノもたんぱく質やカルシウムを含むことから、8ヶ月頃になると離乳食にすりおろして使うのだとか。パルミジャーノ・レッジャーノは、うまみ成分であるグルタミン酸が100gあたり1200~1680mgと豊富な食材だ。でその点も離乳食に適している理由なのだろう。ただし、塩分があるので控えめで。

イタリア料理に欠かせない食材であるトマトはどうか。トマトもグルタミン酸が比較的多いうまみ野菜だが、実は離乳食としては11ヶ月頃からと少々開始時期が遅めだ。日本では離乳食初期から食べさせても問題ないとされているけれど、イタリアではトマトアレルギーが多いため、この点は慎重なのである。

いかがだっただろうか? どちらの国も、その土地に根付いた食の知恵が反映された離乳食を、赤ちゃんは食べている。そしてその味のなかに、うまみもしっかり含まれている。UMAMIは、こうやって広く世界で受け継がれてきた味わいなのだ。

参考:
http://www.komenet.jp/sedai01/91.html
http://www.kizukihoikuen.jp/index.php/2012/01/diary/723.html
https://up-to-you.me/article/922
https://shokuiku-zukan.com/news/speciality/world-babyfood/
http://mamano.me/articles/4MvZu
http://www.babyfood-guide.com/mikaku/
https://chiik.jp/articles/xxGv2
https://kosodate-march.jp/rinyusyoku-sekai58541/#i-5
http://www.kotonoca.com/blog/691
https://babyrina.jp/news/overseas-babyfood.html
https://mainichi.jp/premier/health/articles/20170623/med/00m/010/016000c
http://www.umamiinfo.jp/world/
https://allabout.co.jp/gm/gc/75027/
http://xn--u9jvb554m8uui90coni3od.net/category16/entry32.html
http://www.pickyeater-noproblem.com/偏食?好き嫌い?大丈夫!/味覚の発達のまとめ/味覚の発達:胎児期/
鈴木隆一さん プロフィール

AISSY株式会社
代表取締役社長 慶應義塾大学共同研究員。慶應義塾大学理工学部卒、慶應義塾大学大学院理工学研究科修了。味覚センサーレオ開発者。味博士として多数のメディアに出演し、活動の幅は多岐にわたる。著書には『日本人の味覚は世界一』『味覚力を鍛えれば病気にならない』など。味博士の研究所を運営。
https://aissy.co.jp/
https://aissy.co.jp/ajihakase/blog/