ニッポンふるさとごはん帖
vol.6 えびし~埼玉県秩父市~

料理家、写真家として全国を飛び回り、各地に根ざした食材や料理を食べてきたminokamoさんの、ごはん旅日記。
幼い頃の食の記憶、旅で出会った珍ごはんや地元の方々の触れ合いなど食の思い出を綴ります。

 

こんにちは、minokamoです。
今回ご紹介するのは、埼玉県秩父市の郷土食「えびし」です。

埼玉秩父といえば、京都祇園祭、飛騨高山祭と共に日本三大曳山祭の一つ、秩父神社の例大祭「秩父夜祭」など、四季を通してお祭りがあります。長瀞の岩畳も有名ですね。養蚕業で栄た町でもあります。
秩父鉄道の車窓景色を楽しみつつ、郷土食「えびし」を教えてもらいに、秩父に伺いました。

「えびし」とは、刻んだ柚子の皮や、木ノ実、小麦粉を練って蒸したもの。もともとは戦国時代に保存食として作られ、終戦頃までは結婚式のお膳に登場するお祝いの場の食べ物でした。現在は、一部の飲食店や家庭で軽食やおつまみ用に作られています。
なぜ海老が入ってないのに、えびし!?と思ったのですが、これは海老の木型に入れて整形した説もあります。おめでたい席にもぴったりだったわけです。抽餅子(ゆべし)がなまってえびしになった説もあります。

当時の結婚式は、今では考えられませんが、近所の皆さんで準備し、婚礼の儀は1週間ほどかけて!行われていたため、日持ちするえびしが重宝されました。
また、秩父は傾斜地が多く、主食は米より小麦粉や蕎麦が主流で、うどんも自宅で手打ちするほど小麦が日常食の中、生まれた郷土食でもあります。

秩父のおかあさんに、えびしを作っていただきました。
材料は作る人によってまちまちのようですが、小麦粉、醤油、柚子の皮、砂糖、水、落花生、青海苔、七味などを、うどん用の木製の大きなこね鉢に入れ、手で混ぜてひとまとまりにしたら俵型に成形して蒸します。

あつあつ醤油の色がきいた艶ある蒸しあがり!
輪切りしていただくと、もっちりしていて醤油の風味、柚子の爽やかな香りがふんわり。初めての美味しさでした。
数日経ってから薄切りに食べても、程よい噛み応えがあり美味。醤油、砂糖、七味が入っていると、おやつはもちろん、軽食、おつまみにもなり万能です。秩父産のモルトウィスキーとも、つい試してみましたが、よく合いましたっ!
時代とともに、用途や、形も変化してきたえびし。えびしを通じて、秩父の歴史も感じました。

全6回にわたり、日本の郷土食をご紹介してきました。もちろん、これはほんの一部。
現地に伺うと、ネットでも出てこない郷土食が、おかあさんの話からぽろり出てきたり、話してるご本人も郷土食と知らんかった!なんてこともありました。
私も旅を続けますし、ぜひ皆さんも各地に行ってみて、人・食・文化に触れてみてください。美味しい!から、楽しい発見がきっとありますよ。

minokamo (長尾明子) プロフィール

岐阜県美濃加茂市出身。料理家、写真家。「ごはんで町を元気に!」をテーマに、各地でその土地に根差したメニュー開発、キッチンプロダクトのフードコーディネート、雑誌へのメニュー提案ほか、各世代がつながるイベントも開催。味噌料理も得意とする。各地の郷土食を取材し、紹介する活動も行っている。